向本

小説が好きです。言葉で世界を把握して安心しようとします。でも小説は言葉ではなく物語で描…

向本

小説が好きです。言葉で世界を把握して安心しようとします。でも小説は言葉ではなく物語で描かなければとわかっているのにできないまま数十年。ずっと長いことできないままです。それでも書いてかつ発表しようとするふてぶてしさよ。

マガジン

  • 詩も書いたりします。ココア共和国に一時期応募していて、そこで選んで掲載していただいたものから、落選したものや、新しいものも掲載していけたら・・・なんとなく詩のほうが小説より直接的な気がして恥ずかしいのはなぜでしょう。詩も小説もフィクションなのですが不思議です。

  • 読書note

    本を読んで思ったこと、感じたこと、考えたこと、勝手な考察などを書いた記事を少しずつアップしてます。読んでよかった!と思う本のことだけ書いてます。

  • てのひら小説集

    本当に短くて、小説の種のようなお話たちです。どこかで必死に生きている誰かの人生の一瞬を切り取って書いたつもりの掌編小説集です。

最近の記事

孤独Ⅰ 俺を生かすもの(詩)

酔っていようがいまいが 本音だろうが建て前だろうが 誰も俺に興味などないのだから 自分のことなど語らないのが一番で 語ろうなどとすれば 案外面白くて頭の切れるやつだとか 意外にイケてる充実ぶりだとか どう見てもらいたいかの言葉が知らぬ間に溢れ出し 自分プロデュースの自分に心の中で赤面する 他人の評価など関係ない 自分がわかっていればそれでいい みんな違ってみんないい なんて いつも深く頷いてメモまでとっていた思想などきれいに飛んでいる 俺は幸せだ 俺には才能がある 俺は愛さ

    • あいのうた (詩)

      街を歩いていたら 君がへたくそにうたう あのバンドの曲が流れてきたよ 私は君のように 音を外して 口ずさんだ ららら ららら バンドマンはうたうよ 今は何も誓えないけど 僕は君のそばにいよう テレビを見ていたら 君がかわいいと言っていた女優が出てきたよ 私はフフンと鼻で笑って  こっそり彼女の笑顔を真似た なにさ ちっとも似ていない 髪型さえも全然違う 海の向こうにいる君が 同じ夜空を見上げているかと けなげに冬の夜道に立っていたのに

      • 夏は来ると思っていた (詩)

        夏は来ると思っていた 息苦しいほどの熱と湿 夜空を飾る花火 波打ち際に集う人々 賑やかな蝉の声 煩わしい蚊の羽音 野外で鳴り響くフェス 若き球児たちの汗 長く怠惰な夏休み そりゃ今年も夏は来ると思っていた けれどそんなのわからない 私の左胸は死ぬまでそこにあると思っていた けれどぽっかり失われた 思春期も発情期も授乳期も共に過ごしてきたのに 垂れてしなびて何の役にも立たなくなって 共に棺桶に入ると思っていたのに 突然 悪い腫瘍と一緒に切り取られてしまった ありがとうは言え

        • Blue Blue Blue, and sometimes Gray and Purple (詩)

          たとえば孤独とか 自分が嫌いだとか 誰も傷つけたくないし 自分も傷つきたくないから  黙ってじっと隠れていたいとか 誰かを想いたいのに 誰かを幸せにしたいのに  ぜったいにできないであろう自分とか 自己否定なんて自分大好きの裏返しだよ、という心の声とか 混乱と混沌と混迷と困惑と 言葉を尽くして喋っても書いても伝わらないこととか 伝わらないなんて当たり前じゃんてつっこむ自分とか だけど黙っていてもやっぱり何も伝わらないこととか もうずいぶん長く生きて大人になって誕生より死の方が

        孤独Ⅰ 俺を生かすもの(詩)

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        • 7本
        • 読書note
          3本
        • てのひら小説集
          7本

        記事

          不安を一つ蹴飛ばして (詩)

          不安を一つ蹴飛ばして もっと大きな不安にぶつかって 共に転がった先にあった さらなる不安と合体して 膨らんだ巨大な不安に呑み込まれる 自分より愚かな誰かを笑って 自分より不幸な誰かを憐れんで 太刀打ちできない力の前で卑屈な笑みを浮かべ どうせを口癖に 私なんてと嘯いて それでも生きてここまで来たのも 死ねなかったからなんて消極的な理由で それでもここまで生きてきて よく頑張ったねとかおかしなことを言うあんたを 睨みつけた目から水が出る ドラマのヒーローにでもなったつもり

          不安を一つ蹴飛ばして (詩)

          柴崎友香「パノララ」を読んで

          思いを言葉にするのは困難で言葉にしても届くとは限らず届いても心の内をそのまま解ってもらうのは不可能に近い。 人は自分の願うように変わってはくれない。 同じ時間同じ場所にいても全景が一望できる本当のパノラマではなく少しずつズレてるパノララ(マ)写真のようにしか見ることはできない。 見ている光景は皆違う。 同じ日を繰り返すことで見えた少し違う光景は誰かが見ていたものかもしれない。 それほどに解り合えない絶望。 それでも言葉にして自分自身が変わるしかない。 それで少し世界も変わる。

          柴崎友香「パノララ」を読んで

          気持ちのいいこと (詩)

          お風呂上がりの冷えた麦茶  切ったばかりの髪   映画を観て泣いた日      忘れた頃に芽が出た鉢植え   すべて治療した歯  大喧嘩の後のキス 範囲を勉強し終わったテストの前の夜  ただ話したかったの      という友達からの電話    ごめんと素直に言えた日   ミャーと鳴いて膝にのったネコ  そうだったのかと思えたページ 自分はだめだと思って   本当にだめだと思って   もうだめでいいやと思って    このままで生き

          気持ちのいいこと (詩)

          生きる(詩)

          食べて出してまた食べて 汚して洗ってまた汚し 伸ばし皺にしまた伸ばし 仕舞って出してまた仕舞う 選んで捨ててまた買って 愛して憎んでより愛す できなくて どうしてもできなくて  わかってるのに できなくて 悔やみ 落ち込み 開き直って 立ち直る 知って 覚えて 忘れて 学ぶ 眠れなくて 起きれない 一人になりたくて 人恋しくて 自棄になって 怖くなり  弱くなって 優しくなり 強くなる 立ち上がり 転んで 立ち上がり また転ぶ 破けて血が出て 薄くて柔い 皮膚が生ま

          生きる(詩)

          掌編小説「誰かのハッピーエンド」

           ロング缶にそのまま口をつけ、ほんのり甘く炭酸を含んだアルコール飲料を喉から胃に流し込む。はぁああ。体に染みわたるアルコールに力んでいた節々が緩む。噛み締めていた奥歯、こめかみ、首筋、肩、背中、腰。一日張り詰めていた筋肉がゆっくりとほぐれてゆく。もちろん、実際の筋肉はアルコールでほぐれたりはしない。だからそれは私の心が緩んで、結果体に入っていた力が抜けているだけのことだ。お酒を飲まないと力を抜けない。体も心も張ったままになってしまう。じわじわと酔いが染み渡り、少しずつふにゃ

          掌編小説「誰かのハッピーエンド」

          掌編小説「ゴミ屋敷の幽霊女」

           長い坂の下にその家はある。    古い木造家屋で、幽霊が住むゴミ屋敷と呼ばれている。  広い庭には大きな木々が手入れもされずに生い茂っている。その木々の間を縫うように多種多様な雑草が我が物顔にのさばっている。植物に侵略されたようなその庭に、これまた多種多様ながらくたが所狭しと置かれている。  長い髪を腰まで垂らし、真っ白なファンデーションを塗りたくった顔に真っ赤な口紅をつけた、頭のおかしな幽霊みたいなばあさんが一人で住んでいると噂で聞いたけれど、まだ見たことはない。 「

          掌編小説「ゴミ屋敷の幽霊女」

          3.11 天気の良いあたたかい春の日、花粉に悩まされながらも愛してやまない飼い犬とのんびり散歩をし、いつものベンチに座って抱っこをせがむ甘ったれの愛犬を膝に抱き、ひなたぼっこをしながら前を歩いていく人々を眺めぼんやりする。この日常のひとときが、あり得ないほどの奇跡だとかみしめる日

          3.11 天気の良いあたたかい春の日、花粉に悩まされながらも愛してやまない飼い犬とのんびり散歩をし、いつものベンチに座って抱っこをせがむ甘ったれの愛犬を膝に抱き、ひなたぼっこをしながら前を歩いていく人々を眺めぼんやりする。この日常のひとときが、あり得ないほどの奇跡だとかみしめる日

          伊坂幸太郎「フーガはユーガ」を読んで

          数々の伏線を回収する鮮やかさは相変わらず。どうでもいい会話や出来事は一つもない。 軽やかにすら聞こえる語りで紡がれるのは弱者が理不尽に虐げられる世界。作者はこの世から悪意や罪や理不尽がなくならないこと、勧善懲悪が通用しないことを知っている。 小説的能力があっても都合のよすぎる大団円はない。それでもユーガとフーガはただできることをするのだ。そこに作者のどうにもならないことへの姿勢を感じる。 最後は風我の中に優我はいると思わせる描き方で微かな救いを与えてくれる。 やりきれ

          伊坂幸太郎「フーガはユーガ」を読んで

          ミランダ・ジュライ「最初の悪い男」を読んで

          *内容に触れています 赤裸々であけすけな表現が苦手で、最初は主人公のシェリルにも共感できなかった。孤独ながらも自己完結した秩序ある生活の中で妄想と共生していたシェリル。若く自堕落で身勝手なクリーがやってきてカオスとなった暮らし。敵同士だった二人がフィクションに入り込むようなゲームを通して共犯者となり何かが生まれたはずが、シェリルの暴走した妄想の中でクリーを女というモノとして扱っていたことがわかり決裂。 「奇妙」で「痛い」女たちの様子に「ないでしょ」と思いつつ居たたまれず目

          ミランダ・ジュライ「最初の悪い男」を読んで

          掌編小説「愛をおしえて」

             五日前に別れたはずの男に睨み付けられて美優は戸惑う。 「もう男がいるって本当かよ」  聞かれて正直に頷く。別れた次の日に今の彼と付き合い始めた。 「もう、したのかよ」  男の言葉に美優は首を傾げる。 「寝たのかって聞いてんだよ」  美優はびっくりしながら頷く。  つきあい始めたその日のうちに抱き合った。 「やっぱりお前は誰でもいいんだな」  睨み付けている目が少し濡れているように見えた。 「俺を愛してたわけじゃない。試してみて正解だったよ」  男はつぶやくようにそう言う

          掌編小説「愛をおしえて」

          小説で描きたい。書いても書いてもずっと何かが違う。もっと教養があれば。世界のありようを知りたい。人間てものを。そんなのわかるはずもないか。世界が大きく変わる渦中のような気がしてる。一度終わりに向っているかのよう。今までの常識なんてクソか嘘かも。所詮全ては人が作り出した虚構の世界

          小説で描きたい。書いても書いてもずっと何かが違う。もっと教養があれば。世界のありようを知りたい。人間てものを。そんなのわかるはずもないか。世界が大きく変わる渦中のような気がしてる。一度終わりに向っているかのよう。今までの常識なんてクソか嘘かも。所詮全ては人が作り出した虚構の世界

          掌編小説 「揺らぐ」

           部屋にはベッドと小さなテーブル。収納に入るだけの服や靴。僅かな化粧品。一口コンロの小さなキッチンに作り付けの小さな冷蔵庫。洗濯機置き場はなくて近くのコインランドリーに行く。一人暮らしを始めてからずっとここで暮らしている。真生は先月二十七才になった。  朝9時45分に家から徒歩十分の古本屋に出勤する。高齢のオーナーは体調が悪く最近店に来ない。埃臭い店を開け掃除し仕入れた本を並べたら、たまの接客以外は基本的に読書の時間になる。大きな地震でもきたら大変だなと思う天井まで届きそう

          掌編小説 「揺らぐ」