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賞与を断る選択肢|サンドラの週末

突然ですが、賞与(ボーナス)欲しいですか?
わたしは欲しい。多ければ多いほど嬉しい。賞与が出たらあれを買おう、なんて考える時間は楽しいし、また次の賞与まで仕事を頑張ろうとも思える。

もし、賞与を断れるとしたら、どうしますか?
愚問だよ、断らない。当然貰う。なんで断る必要があるのか。だってほら、そろそろ洗濯機だって買い替えたいし。そういう家電って毎月の給与からじゃなく賞与が入ったきっかけで買い替えようかなって思うじゃない。

では、賞与を貰うか、同僚の復帰か、選べるとしたら?
え、なに。どういうこと。体調不良で休職していた同僚が復職する?でも復職した場合は賞与無し?賞与を貰うか、同僚の復職か。それを従業員が投票して選べっていうの?

映画『サンドラの週末』主人公のサンドラは、その同僚だ。つまり、解雇か復職かの天秤にかけられている。
金曜日に解雇を言い渡されたサンドラは社長に交渉し、週明け月曜日の始業前に再投票を取り付ける。前の投票では主任の圧力がかかっていたから、と。サンドラは土日に16人の同僚たちに会いに行き、賞与ではなく自分の復職を選んで欲しいと説得に回る。この映画はそんな金曜〜月曜までの4日間の物語だ。

1度目の投票でサンドラに入れた人はたったの2人。残りの14人は賞与を選んでいる。再投票では16人のうち過半数である9人がサンドラに投票すれば復職出来る。

順番に自宅を訪ね、「月曜日に再投票してもらえることが決まったの。賞与が欲しいのは分かる。でもわたしにも生活があるから、わたしに投票してくれない?」と説得する。これがひたすら続けられる。映画の大半はこの説得の時間だ。

繰り返される説得を飽きずに観続けられるのは、他人事に思えないからだと思う。淡々と説得に回る映像はまるでドキュメンタリーだ。たとえば車に乗っているシーン以外では流れない音楽。エンドロールですら無音だった。また、何度かある電話するシーンでも相手の電話の声は入ってこない。だからこそサンドラに自分を投影する。投票を断られれば焦り、投票するよと言われれば胸がアツくなる。何軒も家を回りながら「次の人こそは」と願ってしまうのだ。「次の人こそは、サンドラに投票するよと言ってくれますように」と。

こんな提案をしてくる会社であれば潔く辞めてしまう方が良いのではないかと思ってしまうのだけど、ある家の奥様の「わたしも最近失業したばかりだから(夫の)賞与が必要なの」という発言を聞くと、簡単に転職出来ない背景があるのかもしれない。転職できないとするなら、やはりサンドラのように必死になって同僚に頼み込むしか無いのだろうか。たとえ惨めな気持ちになったとしても。
なお、すでに賞与額は決まっていて1000ユーロとのこと。日本円だと約14万円。1000ユーロを受け取るか、サンドラを復職させるか。そんなことを同僚に判断させる会社はやはりおかしい。たとえ復職できたとしても同僚たちと働きにくい環境になるのは目に見えている。職場での働きやすさは人間関係が大いに関係しているのだから。

自分が投票をする立場だったら、を考える。
賞与を受け取るか、同僚の復職か、どちらかに投票しなければいけないとしたら。きっとわたしは「自分のために」同僚の復職に票を入れる。賞与を受け取ればその時は嬉しいかもしれない。でもその先もずっと苦い後悔が残る気がしている。賞与を貰うたびに、その同僚の顔が浮かぶだろう。賞与のタイミングじゃなくたってきっとそうだ。後悔が少ないのは同僚の復職への投票だと思う。だけどそれは自分の今の生活に多少なりとも余裕があるからこそ言えることでもある。

再投票後のサンドラを観ると、この週末で大きく変わったのだなと気付く。
説得に回るうちに見えてくる同僚たちのそれぞれの事情。「悪く思わないで」と付け足されなくても、サンドラは悪く思ったりはしないのだ。ちゃんと同僚の気持ちも分かっているから。そんなサンドラだからこそ、この結末。

再投票の結果は、ぜひ映画でご覧ください。
2014年制作、ベルギーのダルデンヌ兄弟監督作品です。

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