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放課後、魔法少女V

第6話

「秘密の話」


 その日は、やけに早く目が覚めた。日曜日で、しかも何も予定はないのに。なんだかちょっと損した気分。布団に戻ろうかと思ったが、やけに天気がよかったので散歩をすることにした。6時30分。家族を起こさないようにこっそり。鍵に、携帯を持って。なんだか、ちょっとした冒険をしているような気分。家を出ると、ぽかぽかとした朝日が私を迎える。さて、どこまで行こうか?

 朝早いとはいえ、犬の散歩をしている人やジョギングをしている人、疲れた様子できっと仕事帰りなのだろう、家を目指して歩いている人もいた。なんだか思ったよりも人がいてちょっと残念な気分だ。誰もいないけど、いつもの景色を少し期待していたから。非日常は、そんなに体験出来るものではなかった。とりあえず、公園まで歩こう。家を出て、学校へ向かう坂道の途中に公園はある。公園の付近には、ちょっと体の大きいこども嫌いな犬がいるのだが、今日はおやすみ中だったらしい。柵を乗り越えて、ギャンギャンと吠えながら脅かしてくることはなかった。いつも脅かしてくるので、恨み晴らすべくちょっと離れて、あかんべーと舌を出しておいた。ここらへんは、やけに静かで人気も少ない。いつもは、ガヤガヤザワザワと活気に溢れているのでなんだか不思議な感じ。ようやく、非日常感が出てきたような気がする。どうせ誰もいないのだから、公園に着いたら池の鯉をじっくり観察してみようか、いや疲れるまでブランコで遊んでみようか。並ばずに、人の目を気にすることはないのだからブランコの限界を体験出来るチャンスかもしれない。うん、ブランコにしよう!そう心に決めて、公園に入って行くとブランコの近くの木に誰かがいた。なんだか、思わず私は入り口付近にあるベンチの裏に身を潜めてしまった。

 紫の髪に、くりんとしたツインテール。そして、あのちょっと癖のある声。私は彼女を知っている。幼馴染みで、大親友。髪が紫で目立つことを嫌がっているが、私としてはちょっと羨ましい。なぜなら、髪が紫なんていかにもファンタジーの主人公ぽいから。まぁ、彼女の性格は普通of普通なのでファンタジーの主人公なんてありえないけど。で、そんな彼女がこんな朝早く公園で何をしているのだろう?よく聴こえないけど、誰かと話しているようだ。しばらくすると、彼女はポケットからなにやらコンパクトを取り出して、こう叫んだ。

「マジカルメタモルフォーゼ!!チェンジラブ♥️ハート!!」

まるで、魔法少女が変身する時みたいだなと思っていると、彼女の身体が光に包まれてそこには噂の魔法少女、マジカルハート♥️パープルリボンがいた。この街を邪悪な魔法使いから守っていると云われている、目撃者もいて地元メディアも正体を追っているあの魔法少女。それが、それがまさか幼馴染みの彼女、マキだったなんて!?マキは、こちらに気づかない様子で、そのままどこかへ飛び立って行った。いろいろと一度に非日常を体験してしまったせいか、私はブランコに乗ることなくいつもの犬に吠えられて、安心して日常へと帰って行った。家に入る前に、一度頬をつねってみる。

「やっぱり、痛いわ」

 明日から、マキとどう接したらいいのか。私は、日曜日の夕方の日常アニメを観ながら、明日からの日常にドキドキしていた。

ーー

ーーーー

 「マキ?なに読んでるの?」

「う、うおちゃん。これ」

マキは、うおの創作ノートに驚きを隠せなかった。書いた日付は、2年前のものだ。つまり、そのまだ、

「一度、委員長に頼まれて新聞の連載?やってみようかなって思ってさ。書いたんだそれ。でもあんまり受けなくて、結局ボツにしたんだよね。なんか驚いてるけどどうしたの?」

「私の名前があってびっくりしたから。あはは」

「あー、マキの紫の髪ってさ、昔から魔法少女のヒロインぽいなって思ってたから。ごめん、勝手に使って」

「い、いや。ボツになったわけだし気にしてないよ。あははは」

「汗すごいよ。今日そんなに暑いけ?」

7月。まだ暑いまでとはいかない夏の始め。マキは、ひと夏分の汗をかいていた。

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