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三島由紀夫「天人五衰」の風景

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三島由紀夫『天人五衰』の風景(0)

三島由紀夫『天人五衰』の風景(0)


はじめに 三島由紀夫、最後の長編小説『豊饒の海』、最終第四巻『天人五衰』の前半部は、当時の清水市、現在の静岡市清水区を主要な舞台にしている。天人伝説との関係から三保松原は連想しやすいが、実際に読んでみると三保はあまり登場しないし、かなりネガティブな描かれ方をしている。そして、この小説前半部の大半は、三保より数キロ南にあった駒越の信号所が舞台となっている。現在信号所の跡地には文学碑が建っている(言

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三島由紀夫『天人五衰』の風景(1)

三島由紀夫『天人五衰』の風景(1)

「はじめに」はこちら。

1 『天人五衰』における三保松原 冒頭にも書いたように、『天人五衰』というこの巻の題名は、仏教用語であるが、本文の中では、直接には謡曲『羽衣』から引き出されている。言うまでも無く、その舞台は三保松原である。まず、最初に、この小説の中の三保松原について確認しておこう。
 『天人五衰』本文中で、三保松原への言及は三回しかないので、以下、順を追ってみてみよう。

 最初は、「二

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三島由紀夫『天人五衰』の風景(2)

三島由紀夫『天人五衰』の風景(2)

信号塔の「発見」はじめに

51年目の憂国忌、2021年11月25日付静岡新聞に、三島が訪れた駒越の信号所の現存確認できる唯一の遺物であり、小説にも登場する信号灯のことが掲載された。私も関わっていることなので、補足的な解説を記しておく。

信号灯の“発見”

駒越の信号灯が現存することを所有者以外で最初に確認したのは、当時清水港長であった海上保安庁の田中裕二氏である。彼は2018年度から2年間の在

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三島由紀夫『天人五衰』の風景(2.1)

三島由紀夫『天人五衰』の風景(2.1)

信号所はじめに

(2)に続いて安永透のいた駒越の信号所の話をするので、(2.1)としておく。このnoteは学術論文を目指してはいないので論理的な構成や文字数を、そして〆切も気にすることなく、思いついたことを書き並べているだけなので、現時点での落とし所も見通せていないのだけれど、多分このパートは長くなるので、ご承知おき頂きたい。
「ご承知おき頂きたい」ことがもう一つ。このパートは、「天人五衰」前半

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三島由紀夫『天人五衰』の風景(2.2)

三島由紀夫『天人五衰』の風景(2.2)

信号所から読む「天人五衰」はじめに

2020年11月、三保で行われた50年目の憂国忌企画をきっかけに、三島由紀夫『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の前半部を地理的な視点で読み返すという作業をしているnote三島由紀夫『天人五衰』の風景は、さしあたり(1)を三保から始めつつ、駒越の重要性について再認識を促そうという狙いがある。追々三島からも離れて駒越そのものを論じようと考えてもいるのだが、(2)では、

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三島由紀夫『天人五衰』の風景(3)

三島由紀夫『天人五衰』の風景(3)

「暁の寺」の富士駒越から御殿場へ

このnote「三島由紀夫『天人五衰』の風景」は、『豊饒の海』4部作のうち、最後の作品である『天人五衰』の前半分だけを読んでいるので、通常の読書体験なら疾うに気づいているべきことを見落としている。それは、しかし、ここでの展開としては好都合なこともある。(2.2)の終わりに宿題として書いた、『天人五衰』冒頭部に現れる「乳海攪拌」「三羽の鳥」、そして本多の見た清水港越

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