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ネット絵学は、面白い。-『ネット絵学(2018)』の感想

はじめに

こんにちは、konnieと申します。この記事は「ネット絵学2018」の感想を書いています。

2018年5月5日に開催されたコミティア124にて、虎硬(とらこと読む)さん企画による「ネット絵学2018」(以下ネット絵学2)と題したイラスト評論本が発行されました。実はご存知の方もいらっしゃると思いますが、2012年に「ネット絵学」(以下ネット絵学1)として第一弾となる本が発行され、今回の御本はその第二弾にあたります。

ネット絵学は、ジャンルとしてはインターネットイラスト評論となっています。いわゆるイラストレーションをまとめたイラスト集ではなく、はたまたイラストの技術ノウハウ本でもなく、イラストに関する事物をまとめた、今までにない本です。初めてネット絵学1を読んだ時、「こういうものをもとめていたんだ!」と声に出して叫んだぐらいの興奮でした。そして今回待ちに待った第二弾が発行されました。

さて、今回はネット絵学2の感想をと思い、まずは前回のネット絵学1を読み直すことから始めました。6年を経て、インターネット文化の中のイラストレーションや周辺環境がどのように変化したのかを比較しながら見てみたくなったからです。

"ネット絵学"とは何か

そもそも一般的なイラストレーションとは、グラフィックデザイン、視覚伝達を主としたコミュニケーションツール-の一種のようなものであり、それは美術の枠組みの中の列記とした類型を指すんだろうと思います。しかし、昨今のイラストレーション(イラスト)という言葉の用いられ方は非常に多義性に富んでいて、形容しがたいです。それは、特にそれらのイラストレーションがネット文化とともに成長してきたからだと考えています。

インターネットの回線が太くなり、テキスト以外にも画像でコミュニケーションがやり取りできるようになった2000年代付近から、お絵描き掲示板などが隆盛を極め、さらには2007年に絵におけるSNSであるpixivが登場、画像としての一枚絵≒イラストレーションとして認識されていくことになったと考えています。

日本におけるイラスト(≠イラストレーション)

イラストと言い表すときと、イラストレーションと言い表すときの違いが気になっています。絵というと鉛筆と紙でできる最も手軽な創作活動でしたが、それらをネットに挙げる行為等によって、今まで明らかになっていなかった世の中の上手い人達が「見える化」し、プロとアマチュアの境界があいまいになったことも大きく関係しています。

私自身の経験則になりますが、こういうことがありました。
「イラストレーションが好きなんだよね(趣味なんだよね)」ということを一般的な(絵やアニメにあまり精通しない)友人に伝えたとき、それは主にグラフィックデザインなど美術の文脈を持つイラストレーションであると認識されることが多々ありました。一方で自分が興味を持って追っている「イラストレーション」はおそらくネット文化発祥側(対するは美術文脈)であることだということを逆説的に認識していくということです。

”インターネット文化における”という前提のイラストレーション(=ここでいうイラスト)がどこかに在るのだろうと考えています。ネット絵学1ではそのネット文化とともに成長してきた「イラストレーション」が当時を知るイラストレーター達のインタビューによって明らかになっていきます。

今回のネット絵学2はその6年後の世界です。インターネットは、スマートフォンの普及などにより、誰もが当たり前に使用する生活の道具として、より浸透した世界となりました。それによって発生してきたSNS文化やゲーム・アプリなどの影響により、今までのネットイラストレーションはどんどんどんどん一般的な「」という言葉でも遜色なく伝わるようになってきたのかなと感じています。その動向は、今作のネット絵学2にも非常にくっきり表れて、もしくは表しているのかなと感じました。
つまりは、ネット絵学1は未だネット"イラスト"学という言い方がどちらかというと当てはまっている印象で、今作は本来のタイトルである「ネット"絵"学」としての昇華を印象として感じたのでした。

本の構成と感想

全体の構成は前作のネット絵学1と同様に、虎硬さんの導入に始まり、各絵に関わる人に対するインタビュー、そしてその間に挟まるコラムというコンテンツにより章立てて組み立てられています。ここで、各イラストレーターではなく、各"絵に関わる人"と言った部分が前作との大きな違いであり、今作はイラストレーターに留まらず、アニメーター漫画家、さらには編集者まで、"絵に携わる人"として範囲を拡げています。これが「ネット学」に接近する理由の一つです。
前作はイラストレーターとしての、その内部における専門性(ゲームやボカロ、漫画など)に分類がありましたが、今作はより一般的になってきたに対するアプローチの違いによる分類となっていると感じています。

各クリエイターインタビュー

絵に関わる人間に枠を広げたことによって、インタビューの内容の幅も飛躍的に拡がっています。そのため、それら一つ一つのインタビューについて私が感じたことを少しづつまとめようと思います。順番は本文まま、クリエイターを同様に紹介するというよりは、インタビューを踏まえた上で自分なりに抱いた印象を加えつつ話そうかなと思います。

loundrawさん  [キーワード:スターイラストレーター]

言わずと知れた、~2017,18年を代表する気鋭のクリエイターさんです。この方にインタビューを試みたことは現段階のイラストレーター界を語るうえで重要だと私も思っています。インタビューの形式はある意味雑誌的なインタビューに近く、誰もが気になっている、押さえておかなければいけないポイントを的確に拾いつつ、広くさらったという印象です。ただ、2018年になって、ますます今後の活躍が期待される彼の「」を知ることができるという点は大きく、非常に興味深い内容でした。特にloundrawさんは超有名ではあるものの、非常にお若い方で、ドンピシャのPixiv世代です。Pixivに作品を挙げることによって、直接仕事に繋がったりと、最近のイラストレーターを目指す人たちにとっての憧れとなる存在だと思っています。(実際にloundrawさんを筆頭とした感動情景系イラストが増えている印象を受けます。) いわゆる一般的な大学にいながら、学生のうちにイラストレーターとして活躍し始めたり、卒業制作でアニメを作ったりと、いろんな人の進路や悩み、考えについて影響を与え、そのひとつの指標になるような、最前線を走っている人だと思っています。

LM7さん  [キーワード:デザインとプロデュース]

LM7さんを知るきっかけとなったのは私自身もtwitterでした。この1~2年で急激に知名度が上昇した人だと感じています。また、今話題の鳩羽つぐちゃんのデザインを手掛けられたことでも有名ですね。インタビューでは、以前の活動を知ることができ、どういった人かどうか気になっていた立場である自分にとって、非常に面白い内容でした。特に背景やキャラクターまでを手掛けることについては気になるポイントでした。それだけでも成り立ってしまうようなコンセプトアート的ゴリゴリ(?)の背景、可愛いキャラクター。一見、二項対立的な分野でありながら、それらの共存を成立させることについて言及されていて、読んでいる間ずっとワクワクしっぱなしでした。

加茂川さん  [キーワード:描くことと生きること]

加茂川さんとの出会いはこのネット絵学です。このインタビューではapapicoさんというイラストレーターさんを交えてのインタビュー形式で、昨今の「絵を描くこと」という行為の裏にある様々な事情について話していて、本当に興味深い内容でした。個人的に、初っ端から語られる男性の絵/女性の絵という題材は聞いてみたい/語りたい内容でもあって、キター!と思いましたね。絵のジェンダー論から始まり、年齢、境遇とこれから、、などなど、色んな層に影響を与え、今一度考えるキッカケとなる内容だなぁと思いました。

シルバーさん  [キーワード:イラストソーシャル(社会)]

ソーシャルゲームのお話。ソーシャルゲームは出た当時、業界的にもどうなるかわからない、続かない、そんなことが噂されるなかでフタを開けてみると日本のゲーム業界に大きく影響を与える分野となりました。さらにはこれらが火種となっていった、イラスト仕事の増加、時代の流れと並行するイラストレーターの増加などなど、気になる事柄がたくさんあったので、読んでいて常に目からうろこでした。虎硬さんもシルバーさんも業界の経験を背景に、それらの目線も含んだ、他では聞くことができない貴重な内容となっています。イラストレーターのフリーランスと会社員のお話など、イラスト(イラストレーター)の今を語る上で切り離せないソーシャルゲームの話題はこれだけで一冊出せるだろうなと思っています。

豊井さん  [キーワード:絵作りとエモさ]

現在は主にドット絵を手掛けている豊井さんを軸にドット絵、加えてそれらで表現されるものに関する話題が繰り広げられるインタビューです。
4Kに代表されるように、人間の目と遜色ない高解像度が当たり前になってきた世の中です。超低解像度の世界を知らない世代も生まれていて、なぜドット絵があるのかなどを考えることが少なくなってきたのではないでしょうか。また、ドット絵を知っているからこそのなつかしさやそこからのエモさであったり、世代感であったり…。強く情緒感を生む表現物であることへの理解は、それを知っていることも前提にあるのかなと思います。しかしながら、今の若い人たちにとってドット絵とはどんなものなんでしょうか?私自身もがっつり、"制限されたうえ"で生まれた「ドット絵」の世代というよりは、"あえて二次元の表現"として用いる「ドット絵」の使われ方のほうがよく見てきています。話が逸れましたが、豊井さんのライフスタイルや経験、考えから派生した日常に対する想い、それらがドットで表現されることについて、ドット絵から始まり、絵として表現する事など、実は非常に深い内容を扱っているのかなと思うインタビューでした。

小島慶祐さん/バリキオスさん/中園真登さん
[キーワード:アニメという絵、を描く世界]

アニメーターに関する熱いトピックインタビュー。アニメというものがより一般的になってきた時代。アニメビジネスが盛況する中で、それを作っているアニメーターの気になる現況の一例を知ることができる貴重なお話。今まで知ることのなかったアニメの内部について、そういった話題を取り扱った作品、「SHIROBAKO」や「アニメタ!」等 (これでも綺麗すぎる美談という話はよく聞きますが…) により、徐々にどういうことを行っているかがわかってきたような程度の私ですが、それでもブラックボックスのような世界だと思っています。イラストレーションとアニメーションは実は同じ絵を描く行為のなかで真反対にあるような存在なのではないかと勝手に考えています(まず、絵を動かすってすごい!みたいな)。アニメを作っている人たちってどんなことをして、どんな状況なの?ということが気になる方は、参考書として是非ネット絵学2018を加えてみてはいかがでしょうか。

さいとうなおきさん [キーワード:クライアントワークと作家性]

ある意味、前回のネット絵学1の正統派続編的インタビューで、お絵描き掲示板の変遷を含んだ内容となっています。「イラストレーターには作家性も必要では…?」、「色んな作風ができたほうが色んな仕事につながるのではないか…?」といった誰しも(?)が抱くイラストレーターの話題や悩みに対して、ダイレクトに影響を与えるインタビューとなっているのではないでしょうか。さいとうさんの絵は私も実際にデュエルマスターズのカードで拝見したり、ポケモン関連で拝見したり…、「ココにも!あれ、ココにもいらっしゃる!?」という驚きがありました。今回のネットイラストレーション学の軸を司る興味深い内容でした。

平泉康児さん [個人的キーワード:人をつなぐというクリエイション]

この方はイラストレーターの画集やILLUSTRATIONシリーズ(URLは最新の2018)でおなじみですね。ILLUSTRATIONシリーズは私も本当に大好きな本で、毎年毎年楽しみにしています。
個人的にこの人を呼んでくれたことが今作のネット絵学として一番意義があったのではと勝手に想像しています。自分もアッチ側(編集側)の人がどのように考えているのか非常に気になっていたからです。もしかすると、一番鋭い目線で業界を捉えているかもしれません。
イラストレーションはどちらかというと複製可能な媒体、画像データという意味合いが強いです。絵画とはそこが異なっています。そのイラストをいかにメディアとして成立させるかは、イラストレーター自身の個人的なプロデュースも必要ですが、編集や出版といった方々とのコミュニケーションから生まれる側面も非常に強いのかなと考えています。
絵っていいよね」という言葉をキーワードに、色んな人々をつなげられるパワーを持つコミュニケーションツールとして、イラストがもっともっと拡がっていくことを私も願っています。

つくしあきひとさん [キーワード:アナログとデジタル]

メイドインアビスの作者さんです。2017年にアニメ化・放送され大きな反響を呼んだことはまだ記憶に新しいですね!つくし先生の描かれるマンガは、ある意味マンガっぽさよりも絵本っぽさが強く、日本におけるマンガの多様性を示す作品のひとつでもあると感じています。そんなつくし先生の意外な経歴を知ることができるインタビューとなっています。
パソコンやネットというツールによってその分断が起こった、イラスト界隈(?)特有の共通言語が、おそらく「アナログ」と「デジタル」なのではないでしょうか。知っている人に使うとわかるワードですが、意外と伝わらなかったりするものなんですよね。すごく色んなニュアンスを含んだワードだと思っています。インタビューでは、つくし先生の独特の作風についてこれらのワードと共に語られています。
※アナログ:紙にペンや鉛筆を用いて絵を描くこと
※デジタル:主にパソコンやペンタブなどのハードを基に、ソフトを用いて
      絵(CG)を描くこと

爽々さん [キーワード:絵描きは絵を描いている"人"である]

インタビューのトリを飾るに相応しい、ネット絵学2018の表紙を担当された、イラストレーターの爽々さんです!実は、ネット絵学2を初めて読む時、あえて目次を見ずにその流れのまま読んでいったんですが、「あれ?、爽々さんはいつ出てくるんだろう…」と思いながら読んでいました。最後に持ってくるとは、なかなか粋な計らい…。非常にかっこよい表紙絵、この絵の製作についてのお話からインタビューが始まります。対談の形式が、実はクライアントとイラストレーターという関係になっていて、実際のイラストの制作の流れがインタビュー内でわかってしまうという面白さ。その後に続くは爽々さんの全体の制作のお話。個人的に「再掲タグは陽キャ」というトピックが、題のゴロもよく、内容もキャッチーでメッチャ面白かったです。強く共感します…!そういった制作やその影響、そこから出てくる爽々さんのキャラがにじみ出ていて、イラストレーターではあるんですが、それ以前に一人の人であるということを強く意識する、柔らかなインタビューでした。

間のコラム

ネット絵学の神髄は何も「インタビューでイラスト界隈を感じ取れる!」ということだけではありません!私が特に面白いと思っているのは、冒頭や章ごとに挿まれた虎硬さんのコラムです。今回、勢いに任せて筆を進めてみたところ、思った以上に長くなってしまったため、これを次回に回して語ろうと思います。コラムは色んな観点からお話をされていて、どれ一つをとっても、お話を拡げ、開花させていけるであろう種のようなものです。(イラストとは?、とか、今話題のVtuberとかとか!)
そのあたりもとってもたくさん語りたい!という想いが強くなってきたため、分けざるを得ないと思いました。また次回、更新したときに紹介できればと思います!

おわりに

重ねてにはなりますが、こうやって書いてみると220pの恐ろしさを再確認でき、虎硬さんをはじめ、ネット絵学関係者の皆様には本当に感謝しています。(特に値段も!) 改めてお疲れさまでした

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