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ゲオでハイロウズのCDを買った日

小中学生のころはコロコロコミックで連載していた『グランダー武蔵』の影響でバス釣りブームだった。

自分も御多分に洩れずバス釣りにハマり近くの野池に友人と行ったり、釣り雑誌を購読したりしていた。とりわけ熱心に読んでいた『ロッド&リール』という釣り雑誌で、メロコアバンド「コークヘッド・ヒップスターズ」のボーカルKOMATSUが連載していた”ROCK DE FISH” という業界の音楽好きを訪ねるコーナーがあり、そこでロックと出会った。そのときのゲストは格闘家の桜井"マッハ"速人だった。

ゲストは数枚お気に入りのアルバムを挙げるのだが、彼がフェイバリットとして挙げたうちの一つがハイロウズの”Relaxin' WITH THE HIGH-LOWS”というアルバムだった。何となく黄色いそのジャケットが印象に残っていた。

暑い夏の日、チャリで友人の家に遊びに行った帰りにゲオに寄り、店内をぶらぶらしていたところ、そのハイロウズの黄色いCDが面出しで置いてあった。当時はまだ聴いたこともないCDを買うことに抵抗があったが、値札シールを見たところ300円程度で中学生でも買えるほど安く、また毎月”ROCK DE FISH”を読むにつれ、おぼろげながら音楽への憧れが募っていたため、物は試しと思い買った。

それから音楽に、殊にロックのそのサウンド、歌詞に興奮し熱中し、ハイロウズ「青春」という曲の「渡り廊下で先輩殴る 身に降る火の粉払っただけだ」という歌詞を真に受け、部活の先輩から痛い目にあうこともあったが、己のなかで次第に反骨・不服従の精神が醸造され、やがてバンドをやりたい、ロックをしたいという思いがにわかに高まり勃興していった。格闘技にはハマることはなかったが、中学以来の己の畢生のテーマソングは桜井"マッハ"速人の入場テーマ曲と同じハイロウズの「不死身のエレキマン」になった。

ずっとバンドがやりたくてしかたがなかった。

中上健次『十八歳・海へ』の「海へ」という小説では「僕」は最後に高まったパトスの表出として射精をするが、自身にとってのそれは音楽、バンドだった。しかし山と田に囲まれスタジオなど無い宮城の田舎では碌にバンドはできなかった。それゆえ東京の大学に進学し、音楽仲間とバンドができること、自身が作った音楽を一緒に演奏してくれるひとがいることは大変な喜びだった。

あのとき、『ロッド&リール』を読んでいなかったら、そして”ROCK DE FISH”でハイロウズに出会わなかったら、たまたまゲオにハイロウズのCDがなかったら、ロックにハマることはなかったかもしれない。

そう思うとああ出会えてよかったなと思うし、初めて買ったCDがハイロウズであることが嬉しく誇りに思える。初めて自分のCDを買い、封を開けてコンポで再生したあの体験は忘れられない。

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