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【試し読み5】うつと破壊衝動(『うつには祖母がよく効きます』より)

こちらのエッセイは、こうの みさと著『うつには祖母がよく効きます』に収録されています。

うつと破壊衝動


   好きでフォローしている双極性障害の方のアカウントがあるのですが、ユーチューブやツイッターをメインにご自身の経験を赤裸々に発信なさっていて、コミカルでおもしろい。全然、うつうつとしていないんです。

 その方が、過去に「うつの症状が重かった時に、派手な髪色にした。どうして気持ちが落ち込むと自分を破壊する行動に走るのだろう」というような内容を投稿していて、深く共感しました。私の場合も、もしかしたら一種の破壊行動だったのかもしれません。それがたまたま、いくつかが好転した。そう考える方が無難な気がします。実際、ブログの記事をいくつも一気に書いて、翌日寝込む、なんてこともよくありました。みんなにオススメできる方法ではありません。

 きっと根底には、「苦しさから抜け出したい」という感情と同時に「この苦しさをわかってほしい」「生きた証を残したい」という承認欲求をこじらせたものがあり、それらが不安によって増長され、爆発し、原動力になっていたのだと感じます。そうした感情も、悪いものだけとも限りません。

 医師との相談の上にはなりますが、適度に発散させることは必要だと感じます。人に会いたいと思えば会えばいいし、家にいるのがきつかったら外に出ればいい。その結果、翌日寝込んでしまったとしても、動かないでいるよりは後悔しないし、自分の限界がわかるから、次回から無理しなくなりますよね(寝込むのはしんどいですから)。

 どっちが後悔しないか。「ここで何もしなかったら、健康になった時に後悔するんじゃないか」という価値判断で、この一年半は過ごしてきました。自分の病気やしんどい状況って、何か行動を起こす時に高いハードルになりがちだし、自信を失うには十分すぎる材料。だからこそ、ちょっとした自分の欲求に耳を傾けて、少しずつ「やってみたい」を叶えてあげると、すごく満たされます。

 たとえばうつの症状で「朝になるとつらくて起きられなくて、活字が読めないから働けない」という状況だったとします。何もやる気力がなくて、医師にも「ゆっくり休んでください」と言われていれば、もちろん休息が必要です。でも、もし何か活動してみたいと思えていて、医師からも「少しずつ活動してみましょう」と言われている場合、いろんなアプローチの仕方があると思います。

 朝起きられるように睡眠のリズムを整えたり、健康的な生活を心がけたり。といっても、必ずしも朝起きられるようにならないと働けないか、と言われたら、そうとも限りません。在宅の仕事であれば、睡眠のリズムが乱れていても働くことはできますし、活字が読めなくても絵なら描ける場合もあります。

 うつのいい面として、できないことが明確になるから、できることがわかってくることがあります。私が今、イラストのお仕事ができているのは、できないことの隙間を縫って自宅でお仕事ができているからです。

 教室に行けなくても、職場に行けなくても、社会とかかわることはできるのです。

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『うつには祖母がよく効きます』

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