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140字小説③

半年ぶりの更新。Twitterに既出のまとめです。一部修正しています。今回は17作品。過激な表現は無いので是非気楽に読んでいって下さいな。


26.元気にしてますか?

「ただいまー」と言っても返事が無いのには慣れている。独房のような直方体の部屋で何気に角砂糖を舐める暴挙も許される。こんな日々で考えるのはあなたの事ばかり。PCが立ち上がる数秒が待てずにドアの内側についた郵便受けを見ると手紙が見えた。慌てて差出人を見る。「おかえり」の声が聞こえた。

27.本当の悲しみ

本当のことって何処にあるんだろう。数学科の貴方は本当のことは数式の中にしかないと言った。恋愛なんてただの脳内物質だからと言う。でも私は知っている。貴方が感情をとても大事にしていることを。そんな貴方が私の誘いに「今は少し忙しいから」と優しい嘘をつく。私の悲しみもただの脳内物質なのかな。

28.優しさとは

「自分にとって都合の良い人が優しいって違うんじゃない?」怒らない先生を優しいと言った私に母は言った。「お金が必要なら働きなさい」職を失って泣きついた私に父は言った。私の節目にいつも言葉をくれた。それは私を形づくり、道を誤らないようにしてくれた。二人の言葉はその全てが優しさだった。

29.n=x

飛び立つ季節に別れは付きものだ。生物部なんてマニアックな活動を共にした唯一の同級生。「プラナリアはね2つに分断されてもそれぞれが個として再生するんだよ」慰めてるつもりだろうか。あの日の事を思い出す。私達に何らかの刺激さえあれば未分化の感情が恋として芽生えたのかな。n数が足りないよ。

30.ハイボールの夜に

嫉妬に狂う。辛い。こんな僕は僕じゃない。苦しかった。粉々にして欲しかった。そんな僕を形質が残らないくらい見事に粉砕してくれた。そしてまた丁寧な描写で一から造り上げてくれた。その人はいつも美しく正しい形をしている。そんな人とハイボールを飲む、好きな本を語る。こういう夜は素敵ですね。

31.初恋とハードセルツァー

何気ないツイートから創作のヒントが湧く人なんているんだ。私はいつだって産みの苦しみを味わってる。この苦しみから逃れる為に酒を飲む。若者向けの甘酸っぱい酒だって一気に飲めば酔えるんだ。勢いでツイートまでした。どうやっても初恋を思い出してしまう爽やかさ。もう君の顔も思い出せないのに。

32.寂しげな花

ネモフィラがTLに花を咲かせる。一緒に見に行こうと言った約束は果たせないまま。「そんなのカキツバタでも良いし睡蓮でも良いし椿でも良い」と君は言う。僕の具合はいつ良くなるんだろう。焦ってばかり。「君だけでも見に行って欲しい」と言うと君が寂しそうな顔をした。僕だって一緒に生きたいよ。

33.回避依存

「ねぇ、GWはどこか行くの?」この質問にもし「暇」と答えたら嬉しそうに誘う姿は見えている。だから本当は何年も帰ってない「実家」と返す。友達以上になりたいのは知っている。女同士だからダメと言うんじゃない。身を委ねてみたい。でも踏み込まれたくないんだ。誰にも。私の闇は深海より深く黒い。

34.虚構の恋

夢に出てきたあの人に恋をした。あんな笑顔で接してくれた人は現実に居なかった「こんなにも私のことをわかってくれる人はいない」そんなことまで言ってくれる関係に一人で幸せを感じてたんだ。「楽しかった。今までありがとう」でも最期まで分かり合えることは無かった。僕は虚構を見ていたのだから。

35.絶望の休日

僕には人の悲しみだけが見える能力がある。あの子は僕と接してる間いつも笑顔で悲しみを見せたことが無い。良い感じにlineも弾む。今日はクラスの友人カップルも巻き込んでなんとかダブルデートまでこぎつけた。ウキウキで3人が待つ遊園地まで来たとき、笑顔の裏であの子が深い悲しみを見せた。

36.感情のむきだし

「たった半年前までは何の関係も無くお互い楽しく生きてたんだから、それに戻るだけだよ。ね、悲しくな…」
「そんなの何も正しくない!出会ったら最期、もう失うことなんて出来ないんだ!!」
俯いた彼女の肩が震える。かまうもんか。
「そんなの絶対に嫌だ!」
もう止まらない感情も言葉も。

37.静かな決意

幼少期の悲しい思い出話をしているとふいに彼女が泣き出した。僕が泣けない代わりに泣いてくれた。目に涙を溜めて見つめてくる。なんて愛おしいんだろう。二人の心が混ざりあう。目に見えないものが見えた気がした。彼女は何も言葉にしない。この瞬間を永遠と感じた。この人と人生を共にしたいと思った。

38.花束に願いを

出会ってから3年。何をするにも一緒だったね。年末頃から違和感を持ち始め、今では遥か遠くに君を感じる。空虚な言葉、陳腐化するメッセージ、読み取れない感情。変わったのは僕なのか君なのか。最後に願いを込めて花束と手紙を贈る。花言葉はどうでも良い。何か少しでも本当のことが伝われば良いな。

39.存在肯定

仕事で失敗した。存在が否定されたような辛さだ。元気なんて出ない。そんなときに通知音。いつ以来だろう、学生時代の異性の友人だった。「元気してる?白菜見てたら思い出した」自撮りもついている。一瞬で僕の中で僕の存在が肯定される。涙が出たのは秘密にしておく。「元気にしてるよ。そっちは?」

40.惚気話

同級生の彼氏が結婚は考えていないと言う。好き同士ならずっと一緒に居たいし結婚を考えるのは自然な流れじゃないの?プンスカ。そんな彼氏、二十歳の誕生日プレゼントがヘリからの夜景なんてどういうこと?宝石のような輝きで心まで浮き上がるじゃない。花束まで用意して本当にもう訳がわかんない。

41.おひとりさま

地方駅前のロータリーって何か好きだなぁ。ケンカばかりの彼女と別れて一ヶ月、傷心旅行ってやつだ。乗り放題切符は最高。このまま何処に居ても誰も知らないなんて本当に良い。春の陽気を感じながら顔が緩んだ瞬間、何かが変異した。真顔に戻る。これは無理だ。僕は衝動的に君の家に向かう事を決めた。

42.夏の夜の決意

とても静かな夜でした。波の音も遠くに感じる。「上手くいくと良いね」と聞こえて振り返ると小さな蟹が歩いていた。ぼんやり眺めていると「あなたの選択を尊敬するよ」と今度は小魚の群れでした。突如、差し込む光で目が覚めると応援メッセージが2通。夏の夜は浅く短い。私の決意は固い。やってやる。


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