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【ミドリの王国】2020.3個展で制作した絵と物語

①山鳩

『introduction~山鳩』
春の息吹が地中にも届き、土の中の生き物たちが、あちらから、こちらから、這い出して来る頃。森には山鳩の声が静かにこだましていました。羽をワッサと広げるその姿は、光にあたるとなんともいえない色に輝きます。
はいだしてくる虫たちを夢中で掘り起こしながら、フガフガとすすむのはイノシシ。獣道に生える草花に、鼻息がふんふんとかかります。

②炎の女神

『炎の女神』
それはある日、突然におこりました。ドーンと空気をつんざく地響きが大地を揺らしました。蓋がぬけた火山から、ため込んでいた真っ赤なマグマが噴出、一気に世界中を駆け巡りました。次から次へと吹き出すマグマは、いったん出始めるとそれまでの穏やかだった景色から一変。同じ場所だとは思えないほど、怒りであらゆるものを焼き尽くすようでした。

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『獣道』
その拍子に、動き出したものがありました。地面の下に眠っていた、心臓でした。(そう、イノシシが踏んで歩いていた地面の下にね。) それは、もう長らく持ち主から切り離されたままの、この国の王子の心臓でした。

④,満点の星

『満点の星』
赤い太陽と青い空は溶けはじめ、昼とも夜ともつかぬムラサキの世界が幾日も続きました。鳥たちは一斉に飛び回り、蝶たちは群れをなし、乱舞しました。それは、宴のようでもありました。星たちだけが、あらゆる地上の生き物のそんな様子を、くまなく見ていたのでした。

⑤春分を越えて


『春分を超えて』
森の生き物たちはそれぞれ、走り始めました。ひとつの方向に向かって。森の奥深く、木の根と植物がからみあって、トンネルのようになっている場所がありました。そのトンネルを、あるものは傷だらけでようやく抜けて、あるものは鼻歌とともにひょいとくぐり
、またあるものはぐちゃぐちゃにかき混ぜられヨレヨレになって出てきたりしました。

⑥王の椅子

『王の椅子』
トンネルをぬけて、生き物たちが目指したのは森のど真ん中でした。そこは木漏れ日が差し込む野原になっていて、その真ん中には椅子が鎮座していました。リスたちは、椅子に巻きついたツタをはらい、葉っぱできれいにふいて、この椅子の主があらわれるのを、今か今かと待ちました。
しばらくして、生き物たちが皆そろった頃。日が傾き、ちょうど太陽の光が、椅子にあたった瞬間です。・・・コロン!っと真っ白な玉が産まれました。
すべての光の色をたして真っ白に輝くそれは、赤や青や黄色・・・地球上のあらゆる色を内包した、そんな玉でした。

⑦戴冠式


『戴冠式』
地中から掘りおこした心臓をイノシシが差し出すと、真っ白な玉は心臓を抱きかかえ、見る間に人の形になり、玉のような王子の姿があらわれました。王子の頭には、野の花を結って作った冠がのせられました。
王子ははじめて口をひらき、おそるおそる、そのまんまを素直に声に出して歌いはじめました。「あ、あ~、あ~」
集まった生き物たちもそれに続き、それぞれの歌を歌いはじめました。
自分が今出したい音で、出したいように。
調子っぱずれな音もある、大きな音も小さな音もある、
なんでもありなそのハーモニーは
どこまでも嬉しく響き渡りました。


これは、昔々、まだ人と獣と神様の区別がなかった頃のお話です。


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