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【神秘のヨガ?】ヴィム・ホフ・メソッドとチベット密教のツンモ瞑想の違い

ジャンル的には健康法なのでしょうか、「ヴィム・ホフ・メソッド」というのが日本でも知られるようになっています。
noteのクリエイターさんによる記事も増えています。(note.com内を「ヴィム ホフ」で検索。もしくはハッシュタグ)


ヴィム・ホフ・メソッドの呼吸法については↓↓

関連note:ヴィム・ホフ・メソッドの呼吸法とは?やり方、効果、心身への影響や危険性についても


このヴィム・ホフの呼吸法は、チベット密教のツンモ瞑想(g-Tummo、呼吸法、ツンモのヨガ)であるとする意見が見られるようになっています。

参考:チベット仏教のツンモ瞑想で体温上昇丨前半


以前にも、この瞑想する人noteで触れたことがありますが、細かく言うと、ヴィム・ホフ・メソッドとチベット密教のツンモは違うというのが私の意見です。


共通点として考えられること

ヴィム・ホフ・メソッドとチベットのツンモ瞑想の実践において、共通するものはいくつかあると思っています。

まずヴィム・ホフ自身が瞑想、ヨガ、密教について理解と経験がある人物のようです。


 ヴィム・ホフ氏やヴィム・ホフ・メソッドの呼吸法の熟練者の場合には、チベットのツンモと同様の体験が人体の神経生理において生じている可能性は考えられます。


 またチベットのツンモ瞑想・呼吸法においては、とくに酷寒の環境で行ったり、濡れた布を体温で乾かすなどのパフォーマンスの時には、ヴィム・ホフ・メソッドに類似する呼吸法が行われることがあるようです。
 酷寒での体温維持、上昇のためです。


相違点

相違点は特に目的の違いにおいて明確になっています。

 ヴィム・ホフ・メソッドの呼吸法は、特に「呼吸性アルカローシス」とクンバカ(保息、息止め)、及び寒冷刺激によって誘発される「非ふるえ熱産生」を目的としているように思われます。

関連note:ヴィム・ホフ・メソッドの呼吸法とは?>> 「ヴィム・ホフの呼吸法の効果 ―― 呼吸性アルカローシス」「非ふるえ熱産生が関わる?」


 チベットのツンモの場合には、その本質としては、ヴィム・ホフの呼吸法の特徴として顕著な「呼吸性アルカローシス」とは違ったメカニズムが関係していると考えるべきです。

そもそもツンモは宗教的、霊的な実践として行われるものです。


ツンモは下丹田の「ヨーガの火」、チャンダーリーの火であり、内丹(仙道)における陽火(陽気)と同じ現象だと考えるべきです。

酷寒や濡れタオルを乾かすといったパフォーマンスにおいては、ヴィム・ホフ・メソッドに類似するものが取り入れられたりするようですが、本質はヨーガの火であると考えるべきです。

つまり、、、

・チベットのツンモの本質は宗教的実践のための「ヨーガの火」である。

・濡れタオルを乾かすなどのパフォーマンスを含む酷寒などで行われるツンモの行の場合は、「ヨーガの火」+「ヴィム・ホフ・メソッド」だと考えられる。

、、、ということです。


ヨーガの火

「ヨーガの火」は宗教や精神性を重視する伝統において実践されてきました。
 これは中国の内丹(仙道)、「タントラ」「シャクティ」といったものを重視するヨガの流派、「後期密教」に分類されるチベット密教の特に「究竟次第(ゾクリム)」の実践の基礎になるものです。

ヴィム・ホフ・メソッドのように耐寒能力の獲得を目的としているわけではないです。

 ダライ・ラマ法王自身は究竟次第の実践に通じているのかどうか詳しいことは分かりませんが、法王の自伝にはツンモの解説がありました。

“ その僧たちは、特別なタントラ行の深奥な秘技を行うツンモ・ヨーガの達人であった。チャクラ(エネルギーの中心)とナディ(エネルギーの通路)に意識を集中することによって、行者は意識の低い次元の働きを一時的に抑制、停止させ、より高い微妙な次元へ達することができる。仏教的教義では意識にはいくつもの次元がある。低い次元の意識は、触覚、視覚、嗅覚その他の普通の知覚に属し、より微妙なそれは、死の瞬間においてとらえられるものである。“タントラ密教”の目的の一つは、行者をして死を“経験”させることであり、そこから最も深い精神的認識が生じてくるのだ。
 意識の低い次元が抑制されるとき、新しい生理的現象が観察される。……”

ダライ・ラマ『ダライ・ラマ自伝』 山際素男 訳 文春文庫 2001 p. 328


 密教、生命エネルギーの実践については、情報がかなり混乱錯綜しています。
技法的な一つの成果としていいのは、中央気道」の段階だと思われます。

関連note:【ヨガの分類②】クンダリーニ系ハタ・ヨーガ。瞑想やムドラーを重視する密教のヨーガ

 小周天とか大周天、クンダリニー、神秘体験、超能力開発とか、いろんなことが言われていて幻惑されてしまいますが、とりあえずは「中央気道」の段階が一つの成果としていいと思われます。
 それ以降は、技法的なものがどうのこうのではなくて、さらに瞑想体験を深め充実させ、「意識」それ自体に取り組む段階だと思われます。

 

 “低い次元の意識は、触覚、視覚、嗅覚その他の普通の知覚に属し、より微妙なそれは、死の瞬間においてとらえられるものである。“タントラ密教”の目的の一つは、行者をして死を“経験”させることであり、そこから最も深い精神的認識が生じてくるのだ。”

ダライ・ラマ『ダライ・ラマ自伝』 山際素男 訳 文春文庫 2001 p. 328

、、とダライ・ラマ法王の自伝に解説されていますが、これは生命エネルギーが中央気道に流入することによって生じる意識体験に関する記述だと思われます。

例えば「バルド(中有)のヨーガ」というものがあって、チベット密教の一般的な解説だと、、、

 生命エネルギーが中央気道に流入して心臓のチャクラに集まる。
それによって心臓のチャクラにあるティクレ(心滴)が融解し、内奥の意識が解放される。
 するとバルドの体験が生じる。

、、、というものです。

関連note:密教(タントラ)の目的。瞑想、ヨガ、クンダリーニ、神秘体験、超人思想、、、? >> 神秘体験

ちなみにですが、臨死体験者の中にも中央気道に生命エネルギーが流入するというのを経験する人がいるようです。


呼吸法についてちょっと補足。注意

ヴィム・ホフ・メソッドの呼吸法とそっくりの呼吸法がヨガにもあります。
ヴィム・ホフ氏がその呼吸法を参考にしたのかどうかは分かりません。

この呼吸法は、有名なスワミ・ヨーゲシヴァラナンダ師の書籍『魂の科学』の続編的なものである『実践・魂の科学』だったか『実践 ヨーガ大全』だったかにもあったように記憶しています。

ヴィム・ホフの呼吸法にバンダとクンバカを組み合わせたやり方です。
ヨガのプラーナヤーマの中ではけっこう激しいものです。
ちなみにこれはカパーラバーティやバストリカ(別名「火の呼吸」)ではないです。

この呼吸法(ムドラー)にはいわくがあって、かのオウム教団で熱心に行われていました。


 ヴィム・ホフ・メソッドのやり方では無理なバンダやクンバカがなされないようです。その分だけ身体への負担が軽くなるのかもしれません。
 ヨガ式のやり方だと負担が大きいと考えられます。

健康被害についても伝え聞いたことがあります。

 健康目的で行われる体操(アーサナ)としてのヨガ、巷で行われる一般的なヨガでは、バンダとクンバカを用いたプラーナヤーマ(ムドラー)はほとんど行われないのではないでしょうか?
 ムドラーは健康に貢献するという要素はそんなになさそうだし、そもそもこれは密教的なヨガの実践で行われるものだからです。

マニアックな人たちだけがこういったムドラーをするわけです。


 私は、過去に「ババジのクリヤー・ヨーガ」というのを、ほんの短期間やっていたことがあります。

私も詳しいことは分からないのですが、「ババジのクリヤー・ヨーガ」にはいくつかの系統があるようです。
最も有名なのが「あるヨギの自叙伝」のヨガナンダの系統だと思います。

私が伝授してもらったのは、ヨガナンダの系統ではありませんでした。

まずは初級段階のものを伝授され、いくつかのアーサナ(体操)、プラーナヤーマ、瞑想法を教わったのですが、2週間くらいで飽きてやめてしまったので、あんまり記憶にありません、。笑

 教わった初級段階のプラーナヤーマには、クンバカとバンダを用いるムドラーは無かったと記憶しています。
 生命エネルギーの制御に関する独特な考え方やそれに基づく実践あるようでしたが、中級や上級の段階でもクンバカやバンダを用いるムドラーはなさそうな印象でした。


 やはりそのババジのクリヤ・ヨーガには、けっこうマニアックな人たちが集まってました。
その人たちから聞いたのですが、クンダリニーを覚醒させるためにムドラーを熱心にやって、心臓や脳の血管が破裂したり、眼圧が上昇して失明したりなどといった重篤な事故があるようです。


 要領を得ないやり方のムドラーや激しいプラーナヤーマの実践は、得るものが無くてリスクしかないと考えられます。

ヨガのマニアックな呼吸法、ムドラーに興味を持った人は、注意するようにして下さい。