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春の女神

かつて山には神々が棲んでいると信じられていました。
春の女神もまたそうで、ある地方では
女神の棲むところを残しておくために、
なるべく近寄らないようにして
よその土地の人が、わからずに登ったりしないように
道をつけたり木を伐採したりしないでいたといいます。
女神は春になるとその山を下り里にやってきます。
その時が春の訪れで、川はうるおい野の花は咲き
あちこちで鳥たちが鳴き始めるのです。

 女神は野の道を歩き、軽々と小川を超え、
林を抜けて枯れた小枝を拾う。それを天に向けて振ると、
その度に、艶やかな緑の眩しい葉を出し、
その枝がもう一度振られると、あたりの蘇るべきすべてのものが、
目覚めの春に酔うのだった。

『春の女神』串田孫一

 冷たい雨や雪が降ることがあっても
翌日、晴れ渡った空はいちだんと明るい光で満たされます。
 春の女神が、あなたの街へ、私の街へおとずれるのも
そう遠くはないでしょう。
 

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