見出し画像

「話した方がはやい」は本当か


はじまり

「話した方が早いと思うんですけどね」

比較的最近入社した同僚との会話より

『うちに入って何ヶ月か経ったけど、仕事しててどうですか』というごくありふれた世間話を振り、それに対して返された、フルリモートが主流であることと、Slackでのやり取りがメインであることに対する感想の一端だったと思う。
その場では軽く同意しつつ、「とはいえ、Slackとかで文章として残ってると便利なことも多々ありますよ」「要は使い分けですよね〜」みたいな返しをしたような気がする。

が、後から思い返すとなんかモヤる。
モヤモヤ。
話した方が早い。うん、まあ……うん。
モヤモヤ。
いや、間違ってはいないんだよね、たしかにそういう時あるもん。間違って“は”いない。
……“は”、とは。

『直接話した方が早い』はよく聞く意見で、過去職にも『話した方が早いから』としょっちゅう電話をかけてくるお客さんは少なくなかった。
正直私は電話という背後から奇襲を仕掛けてくる系のコミュニケーションツールが苦手なので、電話をかけてこられる度に「うぇぇ……」となった(し、よし電話を取るぞ!ガンバ!と気合を入れた)ものだが、そういう個人の好みの話を差し引けば、確かにメールを送っていつ来るとも知れぬ返信を待つより手っ取り早かった。

早かったよね……?

モヤ。

いや、でも、待てよ………。
“3倍早いけど、10倍疲れた”みたいな経験もしてないか?
……してるな??
びっくりするほど疲れたからこの人とは話さないで絶対テキストコミュニケーションにするって固く心に決めたことが近年あったな…???

一体、「話した方が早い」の裏で何が起きていたんだろうか?

2つの「話した方が早い」

自分の中で整理をすると、「話した方が早い」にはどうも、”めでたしめでたし”で締めくくられる満場一致のハッピーエンドと、ハッピーエンドの皮をかぶったメリーバッドエンドの二面性がある……ような気がする。
その二面性をそれぞれ拙いながら解説してみたい。

【前段】作業の種類

私たちの仕事は大小さまざまな作業の集合体と言える。そして、作業は二種類に分けられる。
頭を使う作業と、使わない作業だ。

後者は単純作業と呼ばれる類のもので、例を挙げるなら草むしりとか、デスクトップの整理とか、リストを見ながらのチェック作業とか、そういうものが当てはまるだろう。
単純作業は良い。時間をかければかけただけの進捗が目に見えてわかるあたり、心にも優しい。
――余談だが、仕事の進捗が思うように出なくて気疲れした時、私は万能ねぎを何袋か買ってきて、ひたすらに刻むことにしている。やり切った感を得られるし、薬味のストックもできるしの一石二鳥なので。仕事で一石二鳥なことあんまりないから……

前者は、その単純作業の真逆に位置するもので、内容は単純ではなく、時間をかけてもかけた分だけ進捗が出るとは限らない。進捗が出たと思いきや、ある程度進めたらこの内容じゃ全然だめだと8割がた消す羽目になったりする。つらい。
具体例としては、プログラミング、提案資料の作成、計画の策定といったものがある。

頭を使わなければいけない作業ほど、重く、負荷が高い。そういう風に定義したい。

凡例っぽいもの

この定義の元、「話した方が早い」を検証するにあたって、まず比較用に「話さなかったから遅い」シチュエーションを想定してみる。
AさんとBさんは同僚で、あることについてお互いの意見をすり合わせて結論を出す必要があるとする。そして、二人はこの目的を達成するためにメールやチャットなどのテキストコミュニケーションを使っている。

テキストコミュニケーションによる目的達成のイメージ

双方わりと頭を使わないといけない他、自分が投げた文章を相手が読んで返すまでの微妙な待機時間が生まれている。
このやり取りで一番のボトルネックとなっているのは文章化だ。「相手に誤解させず、言いたいことが正しく伝わるように文章を書く」というのはなかなか高度なスキルで、コストもかかる。
また、書いた文章を相手が読んでいる時のリアクションも見られないので、相手がどう受け取ったかは相手の返す文章から読み取るしかない。
文章力と読解力が試されている。

さて、このハイカロリーなやり取りを、話すことでどう省力化できるだろうか。

ステキなWin-Win系「話した方が早い」

まず、ハッピーエンドの「話した方が早い」から見ていこう。

じゃーん!

好例

すごい!早い!ワタシシアワセ、アナタシアワセ!

ポイントはいくつかある。

  • 会話を始める前にお互いの思考の整理はすでに終わっていること

  • 現状やゴールといった前提の認識が一致していること

  • お互いのかける労力がほぼ等価であること

簡単にまとめると、この時、お互いが早く結論を出すために必要な準備をしっかりやることによって時間の短縮に成功している。
それぞれで自分の意見や迷っていること、相手に確認したいことをまとめられているからこそ、文章を書いたり読んだりする時間(文章化の難しさ+非同期コミュニケーションによる余計なコスト)が会話という手段によってすんなりと削減できる。

事前の思考の整理に加え、お互いの認識・使う用語等の理解が揃っていれば、会話、つまり口頭の同期コミュニケーションは非常に有意義なものになる。
発言の元になる思考に一定の軸があるので、丁寧に議事録を取っていなかったとしても、後から振り返りやすいし、後で結論の解釈がブレる可能性も低い。

モヤッと系「話した方が早い」

さて、ではもう一つのパターンを見てみよう。

悪例

お、こっちもさっきほどじゃないけど早……。
……。
んんん?
いや、早いよ? 早いけど、エッ?? 何この……この…???

――その、なんていうか、Aさんしか頭使って無くないですか……(小声)

はい、その通り。
Bさんがこの時何を考えていたのかはわからないが、Bさんは会話を始める前に必要な準備をしなかった。それ故、Aさんはまずスタートラインを揃える
べく、本来Bさんが自力ですべき思考の整理から手伝うことになる。
さらに、Bさんが終始受け身の姿勢でいたこともあり、最後までAさんが主導することになってしまっている。

たしかに全体で見ると時間の短縮にはなっているのだが、作業負荷の偏りが大きく、どうも歪な印象が拭えない。
さて、このパターンを「話せば早い」と言って良いものだろうか?

「話した方が早い」は本当か?

これは本当。
やり方が良かろうがまずかろうが、時間の削減にはなる。
ただし、利用回数無制限の「話した方が早い」と利用回数限定の「話した方が早い」が存在しているという点に注意しなければいけない。

しかも、利用回数限定版の「話した方が早い」はかなり扱いが難しい。

  • 何回使えるかは定かでない

  • 後から回数を足すことはほぼ不可能

  • なぜか他所のPJとか予期せぬところの回数が連動して減ったりする

ちゃんと”時間の削減”という仕事においてメリットのある結果が出ている活動なのに、どうして続けられないのか。その理由は大半の人が察しているように”作業負荷の不公平感”にある。

人間関係はある程度Win-Winじゃないと疲弊する

ちょっと想像してみてほしい。
同僚に「一緒にお昼食べませんか?」って誘われて、軽い気持ちで承諾して、どこかのお店に行って、食べて、なぜか当然のように会計を自分に回されたらどう思うだろうか。
※なお、あなたはこの同僚に恩義や借りがあるわけではなく、同僚におめでたいことがあったわけでもなく、当然同僚はあなたの部下でもなければ、臨時収入によりあなたの気が大きくなっているわけでもないものとする。

実際にあなたが同僚の分まで支払ってしまったにせよ、「いやいやちょっと待て」と突っ込んで個別会計にしたにせよ、なんだコイツというネガティブな感情を抱くことは避けられないと思う。
そこに「誰かと一緒にランチ食べるのっていいですよね!また行きましょうね!」って言われたらどうだろう。
「そうですね!」とにっこり笑って返せるだろうか。
私なら多分お茶を濁す。し、多分心の中で「そりゃただ飯はお得ですもんね……」と白い目で見てしまう。

これは仕事に限らず、ありとあらゆる人間関係に言えることだと思うが、凡人は無償の愛なんて持ち合わせていない
何かを与えたら返されたいし、自分が与える一方だと気づいてしまうと思いやりや気遣いの泉は遠からず枯れてしまう。

モヤッとパターンの「話した方が早い」を繰り返してはいけないし、繰り返そうとしても途中で一方が打ち切るようになる理由はここにある。
1回目はAさんも「Bさん忙しかったんだろうな」と思って気にしないかもしれない。
でもそれが2回、3回と同じことの繰り返しになっていくと、Aさんは「なんかいつも私ばっかり苦労してない?」と思う日が必ず来る。
最終的には「時間の短縮」という仕事のメリットが「しんどい」という個人のデメリットに飲み込まれて、話さないことを選ぶところに行きつくだろう。

これは俗にいう信頼貯金が切れた状態と非常によく似ている。
相手から「仕事を任せられない」「一緒に仕事をするのは避けたい」と思われるように、「まともに話ができない」と思われている状態。積んでいる。
こうなる前に、私たちは何かを相手に返さなければいけない。

ワンチームなのに?

この、”ワンチーム”という言葉を自分の都合の良いように使う人が時々現れる。
「私たちはチームなんだから助け合うのは当たり前ですよね?」
つまり、チームなんだから貸し借りとか、助けた回数・助けられた回数みたいなことを考えるのはおかしいのではないか、みたいな意見だ。
しかもこれを助けた方が言うならまだしも、なぜか大体助けられてる方が言うんだよな……。

実際のところ、この意見はひどく的外れで、正直ちょっと引く。(個人の感想です)
チームで一丸となって目的を達成することと、チームメンバーの貢献度を意識しないこととは全く別の話だ。大きく貢献した人も、貢献できなかった人も全くの等価だなんてことはありえない。

ワンチームという考え方において、チームの価値は何かというと、単に目標を達成することではないはずだ。
スポーツで考えてみてほしいのだけれど、

  • 試合に勝って、次もこのメンバーなら勝てると全員が信じているチーム

  • 試合に勝ったけど、メンバーが二度とこのメンツで戦いたくないと思っているチーム

この2チームは勝利という同じ結果を残している。
じゃあチームとしての価値は同じだろうか?
そんなわけがない。

とはいえ、仕事の内容とチーム構成によってもどこまで貢献できるかは異なる。自分が何をやっているか、それがどういう成果に繋がっているかを可視化するのも一つの手だが、それでも周りからの借りの方が大きくなってしまうことはある。

感謝、してますか?

突然話題が変わったって?
変わってないどころか、これが本質かもしれない。

感謝を示すこと、相手の働きを認めて評価すること。
これが案外効果がある。もちろん回数制限もない。
的を射た感謝の言葉は、「こんなこともできないの?」を「……ま、まあちょっとくらいはまた助けてやってもいいんだからね! 忙しいんだけど、ちょっとくらいはね!」にしてくれたりする。(相手の性格、および相手との関係性によってブレが発生します)

仕事でスキル不足などによってできないことがあるのは仕方ない。忙しくて手が回らないことがあるのも仕方ない。体調が悪くて生産性上がらないこともあるさ、にんげんだもの。
でも借りを作ったら(作らなくても)、せめて感謝くらいしようぜ!

初級編

「何かしてもらったらありがとう」
どシンプル。幼稚園とかで習った人もいるはず。
一々深く考えなくていいから、流れてきたツイートとかに”いいね”するくらいの気軽さで:arigato:リアクションをつければ良い。
ありがとうって言われてブチ切れる人はそうそういないし、相手の心がちょっとほぐれるかもしれない。

勿論、シンプル故に1回1回の効果は低い。
しかし、世の中、”塵も積もれば山となる”という言葉もある。何事も積み重ね。
好感度ちょっとしか上がらないとしても、ミネラルタウンをあいさつのために駆け回るよね?(牧場物語はいいぞ……)

中級編

感謝の具体性をUP!
どういう感謝かというと、例えばこんな感じ。
「月末の締め作業で忙しいところ、素早く対応いただきありがとうございました!」
「資料作成ありがとうございます!Xページのグラフ、現状がめちゃくちゃわかりやすいですね。説明するのに助かります」
「フォローありがとうございます……マジで完全に見落としてました。〇〇さんが気づいてなかったらと思うと怖い。。。」

多分これは我が身に置き換えるとわかりやすい。

  • 自分がちょっと頑張ったこと(忙しい中の割り込みだったけど、なんとかうまく回してこなしたんですよ!)

  • 自分が工夫してみたこと(これ言葉だけだと伝わりにくいから、何かで可視化した方がいいと思ったんです)

  • 自分の領分外に越境したこと(気づいてるかもしれないけど、確証がないから拾ってみた…合ってるかな)

こういうことに気が付いて、認めてもらえると結構うれしい。私もちょろいタイプなので「褒められた! 次も頑張る!」になる。
ちなみにこれの難しさは、相手に一定の興味を持って、また、様々な派生業務について知っていないと実行できない点にある。
もし、自分の仕事とそれ以外の仕事みたいな線引きしかできてない時は要注意。AさんがBさんのサポートをした結果、自分が助かったということに気づきたいなら、仕事の全体観を把握する必要がある。

上級編

見えるところで感謝する
おそらく、中級までこなせる人は視野の広さを兼ね備えたなかなかの褒め上手。
とくれば、次のステップは布教しかない。広げよう、感謝と褒め殺しの輪。
その手段が、感謝する人・される人、褒める人・褒められる人以外がいる場所での中級アクション。
進捗打ち合わせの場など、同期コミュニケーションが取れるところで、「そういえばこの作業する時助かりました!」みたいに報告に感謝を入れ込むのもいいし、振り返り文化があるなら、振り返りの中で良かった行動としてバンバン挙げていこう。KEEPが出てこないとか言ってる場合じゃない、褒め倒すのだ。

見えるところで感謝すると良いことが起きたりする。釣られ感謝・釣られ褒めだ。
「Aさんのこの行動良かった、助かった」「ほんそれ。助かった」という便乗感謝パターンがあれば、
「Aさんのこの行動良かった、助かった」「あ、でもそれ実はBさんがリマインドしてくれたんですよ」「マジか。Bさんもありがとう!」という良い行動を支えた何かが明らかになるパターンもある。

こういう流れが増えてくると、自然発生する感謝も増え、他の人が何をして(くれて)いるかへの意識も上がったりする。
これを突き詰めると、いいところは認め合うし、気づいた課題も意見も積極的に出てくるし、正しい「話した方が早い」が当たり前にされるようになるなんかすごいチームができていく。多分。

まとめ

  • 目的達成のために、やるべきことはちゃんとやる。凡事徹底。

  • 一方的に負担を強いる仕事の仕方は長続きしないことを忘れずに。

  • 相手が身内(同僚、チームメンバー)だろうが、Win-Winの意識は大切に。

  • 感謝を伝えよう。

  • 誰が何をしているか、どのアクションが何に繋がるかに興味を持とう。


この記事が参加している募集

仕事について話そう

仕事のコツ

with 日本経済新聞

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?