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東京サルベージ【第33回◾️自戒】

根はどちらかといえば楽天的なのだが、あまり希望的観測は口にしないのが性分である。
とりあえず、悲観的な観測を口走っておいて、(そうじゃないといいな)内心思っているというのが昔からのスタンスだ。
うっかり酔っていた時に、前向きなこと、希望に満ち溢れたことを口走ったものなら、酔いがさめたあとに自己嫌悪に陥ってしまうほど身についてしまっている。酔った時に口走ったことを覚えている酔いきれない体質なもんだから余計に始末に悪い。

この体質が何により形づくられたかといえば、幼少のころより広島カープファンだったことに起因している気がしてならない。資金力のない田舎の貧乏球団。我が愛するカープ。
FA制度が始まっていらい金がないために資金力のある球団に主力選手を奪われるようになった。メジャーに流出するならまだ良いものの、二軍で泥にまみれて育てに育てた選手が、GやTのキャップを被って敵として立ちはだかるというのが見慣れた光景だった。だから、希望的観測なんて口にしたってしょうがない。昨日の友は明日の敵。そんな態度が身についてしまったように思える。
ぜんぶカープのせいだ。

どういう風の吹き回しかメジャーリーグに挑戦したもののシーズン途中で帰国することになった秋山翔吾の獲得に広島カープが名乗りをあげた。
古巣の西武とソフトバンクの争奪戦に割って入って獲得を表明した時に、金のないカープがどうしたんだ!?と記事を疑った。FAは見送るばかり、大物など獲得したことないカープが争奪戦に参戦だって?シンシナティレッズと3年総額2100万ドルで契約していた秋山だよ。
記事の写真に使われている秋山が被ったシンシナティレッズのCのキャップが広島カープの赤いキャップと酷似しているというのが悪い冗談みたいで、勝てない勝負を心の奥底で記者までがバカにしているのではないかと思った。

だが、なぜか今回は直観的に(秋山来るぞ)という気がした。根拠はない。ただ、その直観をダレにも言えずに悶々としていた。私が根っからのカープファンだからだ。ビッグネームは奪われてこそふさわしい。秋山が来たらいいな、なんてあどけない願望は口にだしてはいけないのだ。

だが、果たして、一体全体どうしたことだ。
秋山がカープに入団することになってしまった。ランチを待ちながら何気なく開いたニュース記事に私は茫然としてしまった。
こういうときにカープファンは素直に喜べない。(本当に年俸を支払うことができるのか?)とか(また樽募金をやらなきゃならないんじゃないか)とか余計なことを考えてしまうのだ。

入団交渉が終わったあとの鈴木球団代表の「可能性は薄いと思うが」と前置きしたうえでのコメント、入団の連絡を受けたあと、頭が真っ白になり思わず「マジ!?」と叫んでしまった(おまけにどうやって新幹線に乗ったか覚えていない)というコメントにカープらしさが漂っている。全部ファンの声を代表しちゃってるよ、代表。
祝杯でもあげればよいものの、こんな大物選手が入ってしまったらどう喜んでいいのかわからない。
奪われる気持ちを知っているものだから、獲得競争に敗れた古巣の西武ファンの気持ちが気になって仕方がない。(資金力にあふれるソフトバンクファンの気持ちなぞは私の知ったことではない)
にやける顔を懸命にこらえつつ、ふがいない外野陣に喝をいれるためのポーズとしてダメ元で声かけたら来ちゃったもんだから、金庫をながめてため息ついてるんじゃないの?などと口走ってしまいそうだ。

素直に喜ぶって難しいんだ。屈託なく育った人の専売特許なのかもしれない。
「広島が獲得競争に勝利した」というありえない文言を眺めながら、こんなことは滅多にあるものじゃないから、明日からもつつましく生きねばならないと自戒する私なのであった。


取材、執筆のためにつかわせていただきます。