人たらしのための香水が、人たらしの餌食になった
いい女は、総じていい香りがする。
持論だが、あながち間違っていないと思う。
職場のかわいいあの子も、
気遣いが素晴らしいあの人も。
街でふとその香りを嗅げば、
その人の記憶を思い出す。
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だからプロの人たらしは、
最初のデートではよくある香りを身にまとう。
街中で相手がその香りを嗅ぐたびに、
自分を思い出すきっかけになるから。
そして付き合い始めたら、独特な香りで
私といえばこれ、と嗅覚レベルで人を操る。
と、何かで読んだ。
このように、香り攻撃は本能的に抗えない。
人たらしにとっては、必須のアイテムだ。
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大衆向けの香りか、独特な香りか?はさておき、
わたしにもお気に入りの香りがある。
好きな香りをまとってるときって、
静かにテンションぶちあがるのはわたしだけ?
1人でただ街を歩いているだけなのに
無双している気持ちになる。
一種の武装、なのかもしれない。
自分の武器でありながら、
人たらしの武器として。
この香りが、”わたしの香り”となり
誰かの記憶に紐づいているとしたら
こんなにエモいことはないよな
とにやける。
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苦手だなあと思っていた、会社の若い男の子。
イケイケどんどんで、営業はできるんだけど
何を考えているのかわからない。
でも、みんな口を揃えて
「距離の詰め方がエグい」という。
どうやら距離を詰めてくるらしい。
彼は2年目でありながら、年間成績が1位。
わたしが勝手に苦手でも、営業はできる。
人たらしであることも知っていた。
その彼と、大阪でたまたま飲んだ。
距離詰められないぞ!と身構えていたら
「めっちゃいい香りすんだけど!(タメ口)」
と言われた。
あ〜〜こういうところか〜〜と納得する。
一応わたし先輩なのにタメ口。褒めるでもなく、
うれしい言葉をかけてくる感じ。
この言葉で、彼の営業ができる理由や
人たらしの素質を、すこし垣間見た気がした。
別にこの言葉で0距離になることはない。
でも、苦手な気持ちはふっとんだ。
そしてなんとなく、
この言葉があたまから離れなかった。
次の日、わたしは関西国際空港から出国した。
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数週間後、ジョージア。
ジョージアの乾燥がひどいのか、
日本の湿気がすごいのか。
髪がバッサバサすぎて、日本から
持っていったヘアオイルを塗りたくる。
「めっちゃいい香りすんだけど!」
あぁこれ、
あの子が褒めてくれた香りだ。
この香りは私のお気に入り。
”わたしの香り”なのに、あの子を思い出す。
この香りを嗅ぐたび、
これからわたしは彼を思い出すのか。
あぁ彼を思い出すところまでセットで、
人たらしな彼が計算して放った言葉だったら恐ろしい。
でももう、それはそれでいいな。
まだ手のひらで転がされているのもありだな。
よりこの香りが好きになる。
さぁ、今日も好きな香りをまとおう。
いい女であろう。
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退職時の色紙の言葉。
大阪で飲む前にもらったもので、
まだわたしが彼を、苦手だったとき。
やっぱり距離の詰め方、えぐかったわ。(うれしい)
お返しの愛は無限大、一緒に幸せに貪欲になりましょうね!!