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Estrellas Fugaces☆彡

ほんの3日間のハイキングだがスクレの街を出たのが1週間も前のことのように思える。

2日間担ぎまわしたワインを開けていそいそと川に入った。山を切り崩したところにあるタルラの川には温泉が湧いている。工事現場のど真ん中みたいなところだが、夜になると山々に囲まれた空には満天の星が出て、これが落ちて彷徨うみたいに蛍が飛び回る。四方のうちふたつに小さな光を放つ建物がポツンとあるのみで人の気配はない。昼間あんなに味方のようだった山々は夜になると突然そっけない素振りで、いつも取り残されたような気持ちになる。この土地の母と言われるパチャママの機嫌を損ねぬよう願いながら、浅い温泉に浸かりアルミのコップに注がれたワインを味わった。

マラグアへの道は通常それほど時間のかからない歩きやすい道。景色が抜群にいいからと聞いて選んだまわり道は長く時に険しくて、1日目の夜私たちはマラグアまでたどり着けず適当なところにテントを張った。空はやっぱり星で満ちて、マーケットで調達した塩辛いチーズと黄身の濃い茹で卵を食べながら顔を上げるとあちらこちらに星が降る。丘の上にあるカフェからいつも見ていた山々だ。街はプロテストで盛り上がるけれど、ここへ来ればこんなに静かで、人々はいつも通りに畑を耕しヤギを追い、険しい道をすいすいと渡ってどこかへ出かけ夜道をまたすいすいと帰ってくる。ここの子供たちは新しくできた学校へ通い、ここでスペイン語と英語と、そして大事なケチュア語もちゃんと学ぶ。電気も橋も通って、暮らしもだいぶ良くなった。生まれたての山ヤギのように崖の真ん中で動けずにいる私を踊るように導いてくれたサンダルの男性。そんな話をしながらともにしばらく歩いた。暮らしが違えば見方も違う。

3日目の朝、サラがハイキングの前日にどこかから見つけてきた小さなテントから顔を出すと、昨日気難しい背中を向けていた山が朝日を受けて橙に染まっている。朝風呂のあと、川の向こうから出る早朝のバスに乗り山を越えて街へ戻ってきた。街の入り口はどこも車やら旗やら椅子に座る子供やらで塞がれている。

街へ戻った翌日、軋む足を引きずりながら丘を登った。プロテストが続いてどこも閑散としている。いつもの席、木々の向こうに並ぶ山々を眺めると記憶が色を取り戻す。写真に納まらなかった景色と、そこで暮らす人々、彼らの暮らし方や見方、そこで「道」と呼ばれる崖や、マラグアの家族に呼ばれたじゃがいものスープに、星降る夜の浅い温泉。コーヒーを飲み終わって坂を下る途中、小さな店の軒先で腕を伸ばす男性と言葉を交わす。ハイキングの前に立ち寄ったことのある雑貨店だ。アクセサリー職人のミルトンは本にも詳しい。彼の創作活動やこの国の政治事情、ボリビアの作家のことと、それから彼の名前を4回聞いてやっと店を出ようとすると、お土産に何か作ってあげると引き留められた。針金をぐるぐると回しほんの1分程度で出来上がったのは小さな流れ星。彼から購入した本のしおりにと言う。流れ星のことは話していないから、余計にうれしい気持ちがした。

流れ星を両手で弄びながら坂の上から赤い屋根を眺める。この街もそろそろ出なければ。

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