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レコード棚を順番に聴いていく計画 Vol.89

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[98枚目]●シュガー・パイ・デサント『ゴー・ゴー・パワー : ザ・コンプリート・チェス・シングルズ 1961-1966』<ケント>(09)

<チェス>を支えたパワフルな女性シンガーと言えば、エタ・ジェイムスやココ・テイラーの名前が上がりそうだが、今回ご紹介するシュガー・パイ・デサントも忘れてはならない。本盤は、そんな彼女が<チェス>で放ったシングル盤を集めたものである。彼女の実力を再認識出来る好編集盤だ。

生まれは1935年、ブルックリンだが、4歳の時に家族はサンフランシスコに移住している。父親がフィリピン人で母親が黒人(ピアニスト)。身長は150㎝と小柄で、可愛らしい印象なのだが、ステージ写真や動画等を見ると、歌唱もダンスも強烈で、あきれる程のパワーを見せつける。

デュエット曲も有るエタ・ジェイムスは、小さい頃からの友達で、歌い方も影響が感じられる。聴いていてどっちがどっちか判らなくなる事も有るが、大体において、エタの方がひと段階高い所でブチ切れる事が出来そうだ。もちろん、シュガー・パイが聴き劣りする訳では無い。

経歴をもう少し追いかけてみよう。55年にジョニー・オーティスにスカウトされて、レビューに参加する。尚、ジョニーはエタ・ジェイムスを51年に発掘しているので関連は有ったかも知れない。彼は「シュガー・パイ」の名付け親でもある。因みにフォートップスに「アイ・キャント・ヘルプ・マイセルフ(シュガー・パイ、ハニー・バンチ)」という曲が有るが、「シュガー・パイ」という名のパイは無く(南部にはパンプキン・シュガー・パイは有る)「ハニー」程度の意味だろうとの事だ。見た目が可愛かったので「可愛い子ちゃん」みたいな感じだろうか。因みに「デサント」も本名では無い(謂れは不明)。本名は「Peylia Marsema Balinton」。

59~60年はジェイムズ・ブラウンのレビューに参加。60年にシングル「アイ・ウォント・ノウ」<ヴェルトーン>がビルボードR&Bチャートで第4位となり、有名になった。同曲は夫と録音しているが、二人の仲は長続きしなかったようだ。デサントはシカゴに移り<チェス>と歌手兼ソングライターで契約する。64年には、アメリカン・フォーク・ブルース・フェスティバルのヨーロッパ・ツアーに参加し、迫力満点の歌とダンスで注目を浴びたそうだ。

<チェス>の後は<ブランズウィック>等にもシングルを残しているが、やがて、<Jasman>というレーベルに落ち着いている。今の所、2020年に4曲入りアルバム(アナログ、CD共)を出しているのが最新の活動のようだ。下記サイトで一部再生出来、「ジャンプ・バック」という曲はYouTubeで丸々聴ける。正直、声の衰えは否定できないが、歌い続けてくれるだけで感謝したい気持ちになる。

99年には、ベイ・エリア・ミュージック・アワードの最優秀女性ブルース・シンガーとして表彰、2008年にはリズム&ブルース財団のパイオニア賞を受賞している。その他にも各所から功績を讃えられている。

内容に入ろう。①は64年、ビルボードR&Bチャート(以下チャートと表記)19位の曲。彼女らしいダンサブルなチューンだ。この曲だけではないだろうが、ドラムをモーリス・ホワイトが担当している。②エタ・ジェイムス的なコブシを効かせた曲。ギタリストのジェラルド・シムズの作曲。③は問答無用のエタとの共演。66年のチャート37位。ふたりの迫力にふさわしい厚みのあるサウンドだ。日本のブルーズ・ザ・ブッチャー 590213のカバーも有名だ。④本盤リリース時点で未発表。チャールズ・ステップニーのアレンジと記載してある。歌演奏とも疾走感が素晴らしい。⑤「ハイ・ヒール・スニーカーズ」のアンサー・ソング。64年チャート10位。⑥明るい曲調だが切なさも感じるミディアム・ソング。⑦シュガー・パイ本人が曲作りに参加(他には⑧⑩⑬⑭⑮⑰⑱㉒㉓)している乗りの良い曲。⑧エタとの共演。徐々に盛り上がるさまが最高。

⑨は⑤のフリップ・サイド。コブシも抑え気味で、軽快なリズム&ブルースだ。⑩中々ドスが効いて良い曲。⑪女性コーラスを従えて、比較的優しく歌っている。<モータウン>やガールズ・グループサウンドを意識しているか。しかし、泥臭さは抜けきれない。⑫62年の作品。ポップス寄りの感覚がある。⑬61年の作品。ラテン的な感じもする。⑭63年。The LaFemmesというグループが併記されている(⑲も)。これもリズム&ブルースというよりオールディーズ寄り。⑮男性グループが寄り添う。大人しめ路線だ。歌の上手さはこういう曲でも伝わる。⑯は⑬のフリップ・サイド。

⑰ブラス・セクションが入り、分厚いサウンドが彼女を引き立てている。⑱は⑭よりダイナミックに歌っている。⑲女性コーラス共々乗りの良い曲。⑳64年43位。①のフリップ・サイドでもある。パンチの効いたブルース。㉑シュガー・パイのハスキー・ヴォイスが醸す切なさが生かされている。㉒はポップス寄りと書いた⑫のフリップ・サイドだが、こちらはテンポが良く迫力も十分だ。㉓エタとの共演。二人して伸び伸びと歌い、時にコブシを効かせている。㉔は③のパート2だが、こちらはシュガー・パイ単独。ジャム・セッション感覚がカッコイイ。

①   Soulful Dress

②   I don't wanna fuss

③   In The Basement Part 1

④   Witch For A Night

⑤   Slip-in mules (No High Heel Sneakers)

⑥   Mama didn't raise no fools

⑦   Go Go Power

⑧   Do I Make Myself Clear

⑨   MR & MRS

 
⑩   Good Timin'

⑪   Here You Come Running

⑫   Ask Me

⑬   Can't Let You Go

⑭   Crazy Lovin'

⑮   I Love You So Much

⑯   It Won't be Long

⑰   Jump In My Chest

⑱   Love Me Tonight

⑲   THERE'S GONNA BE TROUBLE

 
⑳ Use what you got

㉑ Never Love a Stranger

㉒ Open Your Heart

㉓ Somewhere Down The Line

㉔ In the basement (Part2)


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