思い出したい景色と残っている感覚

 空に浮かぶ、綺麗なものを見に行った。
それが何だったのかが思い出せない。日が沈みきった静かな夜の空だったと思う。
満天に広がる星のような気もするし、空に漂うオーロラだったかもしれない。ただ月を眺めていただけの気もするし、けたたましく打ち上がる花火だった気もする。
 音も色もないその世界で何を見ていたのか。季節も、温度も、感じる事ができない。本当はその空には何もなくて、目を閉じて夢想に耽っていただけだったのかもしれない。
 曖昧な記憶はいつしか本当に起こった出来事であるのかも曖昧になる。僕の頭の中で起こった出来事は何もかもが曖昧だけれども、綺麗であった。
 根拠のないその感覚だけがずっと残り続けている。記憶もその残像もなく、ただただ感覚のみが残り続けている。


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