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【週刊プラグインレビュー】Purafied / The Panda Rooms

今月はPurafiedからリリースされた「The Panda Rooms」をレビューします。

プラグインのウォークスルーはこちらを

Sam Puraがこのプラグインでモデリングされたスタジオを探訪してくれる動画シリーズはこちらを。
めちゃくちゃ長いので本当に興味のある人だけ・・・。

このプラグインのテーマは「Natural Sound Wetness」となっています。
Wetnessに的確な訳が存在しないので、なんとも表現し難いのですが、
とりあえずこれはいわゆる"Reverb"ではありません。

楽器同士の距離感をコントロールしたり、点音源になっている素材に幅を持たせたり、複数のマイクで収録した素材を接着したり、どれかというと"Glue"の側面を持ったプラグインだと思います。

パッと見かなりツマミも多く、出音もこれまで聞いたことないものになるので、とっつきづらいプラグインだと思います。
しかしその効果はユニークで、生録には敵いませんが、これまでスタジオ録音でしか得ることのできなかったナチュラルな部屋の響きや距離感を素材に後付けすることができます。

以前「マシュマロ」で質問もいただいたのですが、確かにレコーディング経験がないとイメージも沸きづらいと思うので、今回はプラグインの概要を説明しつつ、どのような使い方ができるのか、アイデアをまとめていこうと思います。

概要

まず、簡単にプラグインの構成を紹介します。
「The Panda Rooms」は、Sam Puraが所有するスタジオの10個の部屋を5つのマイクでキャプチャーしたプラグインで、それらを組み合わせたり調整することによって、ルーム・グルーや自然なウェット感をミックスに加えることができます。

このプラグインでの体験を、Sam Puraは「無限にスタジオを予約して、ルームマイクを作り込んでいけるよう」と評していますが、使ってみての感想はまさにその通りです。

収録されている部屋

The Panda Roomsに収録されている部屋は以下の通りです。

1.West Live Room
悪名高きドラムブレラルーム
Basement、Spiritworld、The Dangerous Summer、The Story So Far、State Champsなどのレコードで聴くことができる巨大なドラムを録音するために、サムがよく使う場所

2.West Ctrl Room
一般的にボーカルやアコースティック・ギターのために使用されるコントロール・ルーム
自然で繊細な空間を作り出す素早いドライ・ディケイを提供

3.Hallway
廊下は、サムがたくさんの反射とアンビエンスが必要な時にマイクを置く場所
彼はここが "The Sound of Hits "が見つかる場所だと考えており、特にドラムに推奨している

4.Kitchen
ハムサンドやペーパータオルを置く場所でありながら、なぜかしっかりとしたアンビエンスがある
文字通り、また比喩的にもライブルームと廊下の中間に位置する

5.Bedroom
新鮮なリネンの匂いや居心地の良い昼寝の時間も捉えようとしたが、得られたのはクリーミーで滑らかな減衰を伴う自然な部屋の音だけだった
この部屋は、スタジオの中でも反射の少ない広い部屋のひとつなので、あなたが必要とするゴルディロックスになるかもしれません

※ゴルディロックス・・・「ゴルディロックスと3匹の熊」の主人公ゴルディロックスに因む。お話の内容から"too much"でないちょうど良い状態(just right)を指す。

6.Bathroom
シャワーを浴びながら歌うのが好きなら、言うまでもない

7.Iso Room
超高速レスポンスのアンビエンスで、減衰の少ない空間用
アコースティックギター、スピーカーキャビネット、ボーカル、パンチの効いたドラムなどに使います
”死んでる”部屋がどれほど音を生き生きとさせるか、驚くかもしれない

8.East Live Room
デイヴ・グロールはおそらくEast Live Roomが好きだろう
ライブ感があり、反射的で、スピード感があり、パンチがある
LDCマイクはこのセットアップのために倉庫に置かれ、サウンドに素晴らしい減衰とオプションを与えてくれる

9.East Ctrl Room
基本的にはWest Ctrl Roomに近いが、より広い
タイトでコントロールされたレスポンスが得られる
ステレオ・イメージはマイクのセットアップのハイライトです

10.Warehouse
愛情を込めて育てられたカリフォルニアの緑の匂いを嗅ぐことはできないが、パンダスタジオの最も象徴的なサウンドのひとつであることに変わりはない
アコースティック楽器を暖かく聴かせるアンビエンスだけでなく、サムがこの部屋を文字通りスネアのリアンプに使っているのは有名だ
The Story So Farの「Proper Dose」やSpiritworldの「Deathwestern」のようなレコードのスネアだ
より大きな音を出すために、倉庫のスピーカー・キャビネットを通して演奏していたんだ。きっと彼は、そのためのプラグインがあればいいのにと思っていたに違いない

マニュアルにSam Puraのノリが多分に含まれているので、
結構意訳になってしまっていますが、収録されている部屋の詳細はこんな感じです。

なかなか実際のレコーディング経験がなかったり、日本の住環境的にイメージしづらいと思うのですが、Iso Room以外はナチュラルな部屋の響きがある部屋だと思ってください。
Iso Roomの"Dead"Room(死んでる部屋)という表現はレコーディング現場でもよく使われるのですが、ディケイの伸びない部屋だと思ってください。
確かに部屋として容積はあるんだけど、演奏したり、声を出した直後にはこもらずに残響が消えている。そんなイメージです。


収録されているマイク

1. U47
モノラル
ソースから8フィート(≒2.44メートル)離れた場所に設置
The Story So Farの全作品で使用されたサムの人気エフェクト、Parker Cannonのボーカル・リバーブでその名声を確認できる

2. Louie
バイノーラル・マイクロフォン
ソースから4フィート(≒1.22メートル)離れた場所に設置
音楽的にうまくいかなくても、SamはASMRのロールプレイ・ビデオを作るためにこれを持っている
部屋の中に立っているようなサウンドは、このプラグインならでは

3. SDC(Small Diaphragm Condenser)
ステレオXYのセットアップ
ソースから8フィート(≒2.44メートル)離れた場所に設置
ハードなトランジェントと相性が良く、それでいてヴァイブスも十分

4. Ribbon
ステレオBlumleinリボンセットアップ
ソースから12フィート(≒3.66メートル)離れた場所に設置
信頼性の高いルームマイクでありながら、幾重にも重なるキャラクターでコーティングされている。

5. LDC(Large Diaphragm Condenser)
有名なステレオXYカスタムパンダマイク
ソースから25フィート(≒7.62メートル)離れた場所に設置
圧倒的に反射率が高く、アンビエント・特製ソースとして知られている

※ステレオマイクに関しては、この動画でセッティング方法とサウンドが学べます。音のイメージがつきづらい方は一度見ておくことをオススメします。

以上がプラグインに収録されているマイクになります。
U47以外のマイクの詳細は明かされていませんが、とりあえずプラグインをデモしてみて、イメージを掴むと良いと思います。
ステレオマイキングがXYとBlumleinだけなあたり、Sum Puraは位相に気を使っているのだと思われます。
スネアやボーカルなどのセンター定位のソースが濁らないようにしているのかもしれません。

詳細設定

そしてそして、The Panda Roomsでは、それぞれのアンビエンスサウンドに対して以下の詳細設定が行えます。

Phase[Ø]
位相の切り替え

STEREO WIDTH
マイクのMSバランスの調整
100でナチュラルなステレオサウンド
0でMIDのみ200でSIDEのみ

BALANCE
LRのバランスの調整
ウェットサウンドの定位をLRでコントロールできる

Solo and Mute
マイクのソロとミュート
使わないマイクはミュートしておくとCPU負荷を下げられる

PRE DELAY
マイクで入力される信号を0msec-700msecの間で遅らせる

※いわゆるリバーブのプリディレイではなく、マイクの設置位置をソースから離していくノブだとイメージして使うとわかりやすい。
音速は約340メートル/秒なので、100msec遅らせるとマイクを34メートルソースから離すのに等しい

TONE
700Hzを中心としたシーソーフィルター(≒Tilt EQ)
15dBの増減が可能

HPF
0-450Hzのハイパスフィルター

LPF
600Hz-20kHzのローパスフィルター

これらを組み合わせてルームサウンドを作り上げていくのが
The Panda Roomsになります。正直言ってかなり難しいです。

同じ用途で言えば、UAD Ocean Way StudiosやT-Racks Sunset Sound Studioなどのプラグインの方がよっぽどとっつきやすいです。

じゃあなぜわざわざレビュー書いてまで推すんだって話になるんですけど、
The Panda Roomsの特色とその使い方の提案は次章から・・・。

The Panda Roomsの特徴

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