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4月① さくら咲く噴火の兆し不二の山:満開の桜と富士山遠望

       写真「満開の桜と富士山遠望@河口湖」(Wikipediaより)

 今年は早くも各地で「桜満開」のニュースが飛び交っています。
 さて、その桜――日本人が大好きな、そんな「サクラ=桜」には、さまざまな意味が隠されているようです。

 まずは、春に里を訪れる「稲(サ)の神」の依り代としての「座(クラ)」が名前の元だというものでしょう。

 これは、天つ神の瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)と木花咲耶姫(コノハナノサクヤヒメ)の婚姻神話が出所のようです。
 とすれば「桜の花見」は「稲の豊作の予祝」の試みだということになるのだと思います。

 ところで、コノハナノサクヤヒメは富士の頂上から種を蒔いて花を咲かせたという話もあります。
 どうやら「桜と富士山」は無縁でなかったようです。
 その富士山を絶賛する記述はおびたただしい数に及びます。

 ここでは元禄期に長崎商館の医員として来日したドイツ人のエンゲルベルト・ケンペル『江戸参府旅行日記』に記した一文を紹介しておきます。
 いわく、

 「……周囲の山々は富士山に比べると、ただ低い丘のように見える。それゆえ富士山は旅行中、数里離れていてもわれわれの道標となり、特に私の地図を作るに当って一つの規準として役立った。その姿は円錐形で左右の形が
等しく、堂々としていて、草や木は全く生えていないが、世界中でいちばん美しい山と言うのは当然である」

 そんな富士山を描いた葛飾北斎のシリーズ版画「富嶽三十六景」も忘れられません。
 なかでも高速度カメラで撮影したかのように静止する大波の彼方に富士山を望む「神奈川沖浪裏」はじめ「赤富士」の名で有名な「凱風(がいふう)快晴」などは誰もが知る日本の絶景なのではないでしょうか。

 今年は桜の開花が例年より早かった。で、3月半ばから、いつ、どこに行こうかと、そわそわし始めるほかなかった。

 さて、英語でCherryというとサクランボを意味する。  桜の花を指し示すには Cheryy blossom、つまり「サクランボの花」と言わねばならない。

 そこで思い出すべきは、ぼくら日本人が大好きなソメイヨシノはサクランボを作らないということだ。
 「花より団子」という言葉がある。が、日本人にとっては「サクランボより花」でもあるということになるだろう。

 ただし、花見というと「花だけ」では収まらない。

 造園学から日本文化までを広く論じた白幡洋三郎さんの『花見と桜:日本的なるもの再考』(PHP新書)という書物によると、「桜より花見が大事」
ということになりそうだ。
 それは「群桜・群衆・飲食」の三要素が揃ってはじめて成立する日本人の春の楽しみなのだ。

 そんな花見のための桜の名所が日本全国にはたくさんある。
 桜前線が北上してくると、気もそぞろ、日本人の多くは、そうした場所に出かけたくなるのだ。

 今ひとつ日本人が誇らしく思う風景に富士山がある。内外の多くの人が富士山を絶賛する言葉を発してきた。

 たとえばラフカディオ・ハーン(1850~1904)は、こう表現した。
 「雲一つない晴れた日の、わけても春秋の二季、山容のあらましを残雪か、さては初雪に蔽われながら、遠く空のかなたに突兀(とっこつ)に
浮かび立つ富士の麗容、これこそは日本の国の最もうるわしい絶景、
否、まさしく世界の絶景のひとつだ」

 それに富士山は、万葉の昔から歌に詠まれ、物語の舞台となり、絵や版画に描かれ、信仰の対象ともなってきた。
 そんな多様な文化を育んだことから、ついに2013年、「信仰の対象と芸術の源泉」としてユネスコ世界文化遺産に指定された。

 「満開の桜と富士山の遠景」は、誰もが異議をはさむことのない「内海の多島海・瀬戸内海の美景」と並ぶ「にっぽん原風景」の典型なのだ。

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