高齢者の価値観に触れて思うこと
今日は久しぶりに仕事の話を。
私の仕事は作業療法士。
現在は病院でのリハビリではなく、利用者の自宅でリハビリを行う訪問リハビリに従事している。
利用者の大半は高齢者。
年齢は80代後半が1番多いかな。
作業療法士になって10年以上。
最近は大正生まれの人が珍しくなってきた。
10年前は口を開けば戦時中の話をする高齢者が多かったが、最近は戦争の記憶がない、経験がない高齢者も増えた。
満州引き上げの話とか、家に女中さんが居たとか、防空壕に入ったとか、そういう話はだんだん聞けなくなってきている。
時は流れてるんだなと感じる。
そんな時代を生きた高齢者の価値観に触れるのも、最近は貴重だなと思う。
とあるおばあさんとのエピソードを紹介してみる。
◇◇◇
3月、担当しているおばあさん(Aさん・80代)のお宅にて。私が結婚して3年目になること、子供は居ないことみたいな、よくある世間話をしていたとき、
「2年も経ったのにまだ子供ができんの?!それは子供が出来ん身体かもしれんよ。ありゃー、どうするね!早く作らんと!」
とAさんに言われた。
私は不妊治療治癒をしている。
普通だったら不快感を覚えそうな発言だけどそういう気持ちには一切ならず、ただただびっくりした。
久しぶりにザ・昭和!みたいな価値観に触れて、逆に新鮮だったのだ。笑 まだこういうこと言う人居るんだなぁ、逆にレアだなぁって。
高齢者相手にしてると「子供はまだ?早い方がいいよ」と言われることはよくある。でもここまでストレートに言う人は珍しい。
Aさんがこんな発言をするのは色々理由があるのだと思う。
Aさんの家は貧乏で、専業主婦が当たり前の時代に男に混じって現場作業をしていたそうだ。女だからと馬鹿にされ、酷いことも言われてきた。そんな男社会で生きるため、はっきりものを言う性格になったらしい。
そして自分もなかなか子供に恵まれなかったこと、やっとできた子供が可愛くて可愛くてたまらなかったこと、そんな息子が現在も自分の身の回りの世話をしてくれて大変助かっていること。
そういう生活歴が背景ある。
そして男勝りの性格だ。
だから「それは子供が出来ん身体かもしれんよ。ありゃー、どうするね!早く作らんと!」というストレートな発言になったんだろう。
子供が出来ないプレッシャーを感じながら、ようやく出来た子供。その子供は今もなお優しく、幸せに暮らしてるAさん。
だからこそ、私のことを心配してるのだろう。
子供は早いうちがいいよ。
私のように苦労しないで。
子供が居たら幸せだよ、と。
Aさんの足をマッサージしながら、そんなことを思った。
◇◇◇
Aさんの価値観は時代に合ってない。
Aさんのバックグラウンドを知らない人は「老害だ!」と思うだろう。そう言われても仕方ない発言だ。
でも、これでいいんだと思う。
今更価値観を変える必要ない。
Aさんの暮らしはかなり限定的だ。
もう何十年もデイサービスと自宅の往復の生活をしている。会うのは家族と介護スタッフだけ。趣味は時代劇や30年前のトレンディドラマをみること。インターネットはほぼ観たことがない。
こんな暮らしを何十年もしていたら、価値観がアップデートされる訳がない。自分がバリバリ働いていた頃の価値観が優先されるのは仕方ない。
でも、先に書いたようにAさんの暮らしは限られた人間関係で成り立っている。Aさんの周りは彼女の性格を熟知した人達だけだ。「老害だ」と言い寄ってくる人はいないだろう。
だったらこのままでいいじゃないか。
皆が現代の多様性を尊重する価値観にアップデートする必要はない。それこそ押しつけになってしまう。
Aさんの「女は結婚して出産する人生が幸せ!」と言う価値観も尊重してあげないと。高齢者が生きた時代背景を考えずに「老害だ」と一括りにしてしまうのも違うよなと思う。
私もいつか、時代に置いていかれる日が来る。
そんな時に「老害だ」と排除されたら悲しい。
私は私で「最近はそう考えるんだね」って理解あるおばあちゃんになりたいし、周りには「そういう時代があったんだね」とその時代の価値観を認めてもらいたい。
高齢者の暮らしを見ると、現代の価値観に合わせるのは無理だ。よっぽど社交的で若者の輪にも入って行く人ならまだしも、多くの高齢者はごく限られた社会で生きている。
高齢者に限らず、私もそうかもしれないけど。
だからこそ、みんな価値観の違いを認め合って、その上で意見交換とかできたらいいのにな。
価値観は限定される。全ては網羅できない。
Aさんに、「今は夫婦二人暮らしの人も多いよ」と伝えたら「そうね、やっぱり子供はいたほうがいいよ。でもあんたがそれで幸せなら良か!」と言ってた。
Aさんの言い方は決して、自分の価値観を押し付けているような感じではなかった。すごく相手を尊重している。ただ、ちょっと言い方が誤解招くけど。笑
そんな仕事の一コマでした。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
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