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障害者の支援で大切な資質について

 「障害者の支援する人にとって一番大切な資質は人間性ではないかと思う」
 滋賀県にある「やまなみ工房」の山下完和さんが書いてらっしゃった文章にあったこの言葉が何年もずっと心に残っています。本当にその通りだと思ったのです。お粗末な人間性の私でも、というか、そんな私だからこそ、やはりこの仕事には人間性が一番大切だよなといつも思うのです。もちろん「人間性なんて、そんな漠然とした資質はあるのか?」という反論もあるでしょう。でも、突き詰めて一言に集約するとすれば人間性ということになると私も思うのです。どうしてそう思うのかについて今回は書いていきたいと思います。

 それにはまず「障害者を支援する仕事とは何なのか?」について説明しなくてはなりません。一言でわかりやすく言えば「障害をお持ちの方が、やりたいと思っているのに障害が理由でできないことを、できるようにサポートすること」ということになると思います。身体障害のある方であればイメージがしやすいでしょう。食事を口に運んでほしいとか、トイレをしたいから便器に座らせてほしいとか、当事者のやりたいことがあって、そのやりたいことをする上で、できないところを当事者から支援者に明確に指示してもらえるので、支援者は必要なことだけをサポートするだけで良い場合が多く、流れがシンプルなのかなと思います。

 しかし、私のメインフィールドである知的障害、発達障害、精神障害のある方にとっては、そもそも、そのやりたいことがわからなかったり、やりたいことがあっても何をどうお願いすれば良いのかがわからなかったり、お願いしたいことを上手く伝えられなかったりと、支援者がとにかく当事者の指示を待っているだけでは難しいことが多いのです。さらには食べ過ぎてしまったり、お金を使い過ぎてしまったりと、やりたいことを自分でセーブすることも難しいこともあるのです。だからそんな時は支援者は当事者がやりたいことをセーブするという、意思決定の部分にまで、サポートをしていかなくてはなりません。さらには、どこに行きたいか、何をしたいか、何をしてほしくないかがわからなかったり、うまく言えない人の代わりに、やりたいことや、行きたい場所を想像して、こっち主導で選択肢を決めて、その中から選んでもらったり、選択が難しいからと、こちらで決めたことを「○○しますか?」と聞いて、とりあえず「します」と答えてもらってそれが本人の意思となることもあります。とにかく、どっちが主なのかわからないようなことまで口を出したり、指示までしてしまうような場面がよくあるのです。そこには指示を受けて動かなければならないはずの支援者が、意思決定にまで口をだしてしまうという立場の逆転があるのです。これは危険です。いい大人の当事者をまるで幼児にでも接するかのように、子ども扱いで指示をしたり、やりたいことを制限することに、何の疑問も持たなくなってしまう危険性にあふれているのです。
 
 ここに顕著に支援者の人間性が出る気がします。よく支援者が当事者について「指示が入る」とか「入らない」とかいう言い方をすることが多いですが、その表現は立場を勘違いしているように感じてあまり好きではないです。支援者の仕事には謙虚に立場をわきまえて、その何をしたいのかがわからなかったり、節制も難しい当事者に真摯に向き合って、その人にとって何が幸せなのかを真剣に考えた上で、その人の思いを探り、汲みとって、その方の意思決定をお手伝いしていくみたいなことを、黙々と地道にコツコツと、しかも独り善がりにならずにやっていける人間性が必要だと思うんです。

 一方で、お客様として下から支えるのも好きではないのです。上からでも下からでもなく、対等な関係こそが一番重要だと思います。営業をしていたときのお客様と取引先の関係もそうでしたが、支援者と当事者の対等な関係こそが一番良い関係だと思います。人間に上も下もないのです。仕事だろうと、仕事でなかろうと、障害があろうと、なかろうと、対等な一人の人間対人間として、その人の前に真っ直ぐ立って、ちゃんと向き合うみたいなことが、良い信頼関係を構築することに繋がっていくのだと思うのです。支援者として当事者を一人の人間としてリスペクトするだけでなく、当事者も支援者をリスペクトするみたいな関係を作っていける人は素晴らしいなといつも思っています。

 障害のある方は今までずっと障害者カーストとして偏見と差別に苦しめられてきたと言えると思います。差別や偏見の壁に惑わされることなく、一人の同じ人間対人間として、対等な立場で向き合える人間性こそが、この障害者支援の仕事の一番大切な資質ではないかと私も思うのです。そんな支援者になれるよう日々精進していきたいと思います。

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