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「試し行動」という言葉の違和感

こんにちは。就労支援員のサイトウです。

今回は、対人援助の現場でよく耳にする「試し行動」について考えてみたいと思います。
(事例については、個人が特定できないよう加工しています)



①試し行動とはなにか
試し行動という言葉はよく聞くものの、明確な定義はあまり見つかりませんでした。
ネットで検索すると、幼児が大人に対して「構ってもらう」ために取る行動、愛着形成が上手くいかなかった大人が取る行動、恋人同士が愛情を確認するために取る行動などとして説明されていました。どれも共通していたのは「相手を困らせる」行動ということでした。

私が初めて試し行動という言葉を聞いたのは、支援者になって1年目の頃でした。
当時担当していたクライアントが、何かにつけて私に文句を言ってくるのです。その方は、依存症の患者さんでもありました。
上司に相談すると「それは試し行動だね。サイトウさんを困らせて、自分の相手をしてくれるか、信頼できる人物か見定めているんだよ。だから相手にしない方がいいよ」と教えてくれました。
そのときの上司の助言が正しかったのかはわかりませんが、それから試し行動に対しては毅然とした対応を取ることが多くなりました。また、試し行動に対して従順な支援者は未熟であるという固定観念を持つようになりました。


②試し行動という言葉の違和感
西川(2017)は「試し行動という言葉は、子どもを支援する側の者から主観的に名付けた行動である」※1とし、クライアントと支援者の「2者のやり取りの中で生まれます、ということは、試し行動といわれる行動をとる子どもの心の背景に迫る事も大切ですが、同時に支援者が「試されたと感じた時の、自分自身の認識を見つめる事」も必要であると思う」と述べています。
わたしが試し行動という言葉に違和感を持つのは、支援者がこの言葉を使うと、評価をする側という特権的な存在でいるように感じるからです。

行為者-観察者バイアスという認知バイアスがあります。自分の行動は外的な要因に責があるとし、他者の行動はその人の内面に原因を帰属しがちになるという認知的偏りです。
試し行動という言葉を使う時、支援者がこの認知バイアスに陥っていることはないでしょうか。西川のいうように、困っている理由を自身の内面に問いかけることも大切な気がします。


③試し行動について捉え直す
試し行動という支援者側の言葉は、今一度捉え直す必要があると思うのです。私たち支援者も、試し行動をすることはないでしょうか。相手がどんな反応をするのか、自分に対してどれほどの興味を持っているのか、言葉や行動で試してみるというのは、人間の性ではないでしょうか。クライアントだけが、試し行動をする者として扱われることはある意味差別的であるとすら感じています。

西川は「相手との関係性において試されているとか、困難を感じるとかいった時、実は自分の心 にある抵抗を「この人は私を困らせようとしている!」と相手の行動に責任転嫁している事があるように思う」※1と述べています。支援者にこのような思いがあることは少なくないと感じます。支援は勝負ではありません。クライアントが支援者が困るような発言や行動をとった場合、なぜそのような行動をとったのかという想像だけでなく、もう一歩先の、なぜそれで自分が困っているのかということまで考える必要があると思います。

冒頭の話に戻ると、そのクライアントはわたしを自分の支援者としてふさわしいのか試したかったのかもしれません。一方でわたし自身は、支援者一年生であるため、新人として接してほしかったという思いも正直ありました(クライアントからしてみたら相当わがままな思いですが)。
最終的に、3か月ほど経ったある日、わたしが勇気を出して「文句をいう理由はなんですか?ちゃんと教えてくださったら対応します。ただ、あなたの日々の発言で、わたしは傷ついています」と伝えると、次の日から文句を言うことはほとんどなくなりました。
その方は、新人として接してほしいというわたしの身勝手な思いに気づいていたのかもしれません。それでも支援者として現場に出た以上、しっかりと対応してほしい。支援技術が未熟だったとしても、1人の人間として向き合ってほしい。そう思っていたのかもしれません。

その方のおかげで、今のわたしがあります。クライアントが支援者を困らせる理由、それに対して自分が困っている理由について深く考えるクセがつきました。

「試し行動」という言葉は強力な上下関係を表していると思います。できるだけこの言葉を使わずに、支援を続けていきたいと感じています。



今回もお読みいただきありがとうございました。



-引用-

西川 友理(2017)「福祉系対人援助職養成の現場から 31」団士郎編『対人援助学マガジン』vol.31,対人援助学会,p75.

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