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往復書簡④小齋→清尾「ACLの実感」その2

まずは、本題の試合に入る前に「食」について。
清尾さんが仰る中華料理屋。よく覚えています。交差点の角にあった店ですよね。
前日トレーニングの帰りか、試合当日、キックオフ前の腹ごしらえとして食べたんですかね。私は牛肉の薄切りとネギらしき野菜が載った麺を頼んで、アッサリ味で美味しかった記憶があります。今だったら、たぶんスマホで撮影していてこのラーメンの写真も残ってるんでしょうね。

それと、パクチーは私も苦手だったので自分の椀には入れないように頼んだ気がします。どうやってお願いしたのか正確には覚えていませんが、たぶんノートに「香菜」と書いたのを見せて手でバツ印を作ったか、「ノー・パクチー」と連呼したかのどちらかだと思います。

また、清尾さんの記述にある通り、クラブ側の計らいで遠征に参加したメディアが一堂に会して食事をしたのもこの時かと。
最初は特殊なペットショップのような地階に連れていかれ「食いたいもの選べ」みたいに見せられた記憶があります。たしか魚やエイなどの水槽のほかにサソリがいたのは覚えています。もっとも、私が店側のその意図に気づいたのは、地階を一周した後に上階に通され席についてしばらく経ってからのことでした。「ああ!アレってそういう意味だったのか!」と。


撮影:清尾 淳

さて、では本題の試合内容へ……と行きたいところですが、個人的に覚えていることがもうひとつ。
試合当日の4月25日。
メディア受付は前日のうちに済ませていたので入場門はメディアパスを見せるだけで通してくれた、はずだったと思います。そこで困った記憶はないので。問題は記者席近くの入場ゲート。門には鍵がかけられ、数人の警察官とおぼしき格好の男性たちが立ちはだかっていました。
中国に限ったことではありませんが、日本だと民間の警備会社の方が居るポイントに警察官または軍人と思われる方が居るというのは、ACLでこのあとも経験しましたね。

で、記者席至近のゲートをくぐる前に厳重な荷物検査がスタート。
デイパックを開け、ノートPCバッグを開け、ペンケースの中身も1本1本あらためられ、さらには煙草の箱の中まで開けさせられた挙句、入れてあった100円ライターは「これは中には持ち込めない」と没収の憂き目に遭いました。
スタジアム周辺には喫煙所らしきエリアも見あたらなかったので「まあ、ホテルに戻れば何とかなるしいいか……」と諦めたのですが、記者席について目を疑いました。
現地の記者の皆さん、当たり前のように自分の席で煙草ふかしながらキーボード叩いてる。
「え?なんでこの環境で俺のライターだけ没収するの?完全に嫌がらせだろコレ」
と憤慨したことを覚えています。


まもなく浦和から駆け付けたサポーターたちの入場もはじまり、やがて怒涛の「ウラーワレッズ!」コール。
記者席はメインスタンドにあるため現地の観客たちの反応が如実にわかります。日本国内のアウェイゲームでも同じですが、この瞬間のメインスタンドのどよめきというのはいつ耳にしても誇らしい気持ちが湧いてくるものです(自分は何もやっていないのに)。清尾さんも書かれている通り、レッズサポーターの大声援に抗おうとするかのように、上海申花のサポーターたちに動きが。その場面、ノートにはこう記してありました。
【二手に分かれていた上海サポがひとつに合流→直後に選手入場。合流しないと浦和サポにかなわないと思ったのかも。合流して、人数的には浦和の7~8割くらいか】


撮影:清尾 淳

16時キックオフの試合、天候はくもり、気温は23.4度。
レッズのDFラインは左から阿部・闘莉王・堀之内・坪井。ちなみに阿部の一列前は小野、坪井の前は山田。前半45分を0-0で終えた時にはこう記してありました。

【ツボの右サイドが攻撃において完全にブレーキに。ヤマの調子も良くないので一人で打開できない。左からしか期待できない感じ】

なお、坪井の名誉のために記しておきますが、守備面での彼はいつも通りチームに大きく貢献。0-0のまま迎えた後半27分には、ロングパス1本で相手の速い選手に抜け出されそうになったところを併走。いち早くボールに追いついて頭でつつき、GK都築へと戻してピンチを防いでいます。【トゥかホリだったら、やられてたかも】とノートには記してありました。

試合が波乱を見せはじめたのは、坪井のこのプレーからまもなく。
後半29分、山田が相手を倒して警告。さらに約1分後、スローインの際に遅延行為と判断されて2枚目のイエローカードを貰ってしまいます。
ただし主審は山田が2度目の警告だと気づいておらず、指摘を受けてからレッドカードを出す始末でした。納得のいかない山田は主審を睨みつけながらベンチへ。第4審判に「ベンチ外へ退場するよう」促され、レッズマネジャーに背を押されて渋々とロッカールームへ引き上げていきました。

山田はピッチを去る際、キャプテンマークを外して近くにいたポンテへと手渡していました。しかしポンテは自分の腕に付けようとはせず、それを長谷部の左腕に巻き付けました。
キャプテンマークを巻かれた長谷部は照れくさそうな、困ったような表情を見せた後、それを外すと坪井の腕へと巻き直しています。

10人になったレッズ、山田の位置には中央にいた長谷部がスライド。36分にはワシントンに代わり岡野を投入。岡野が右サイドに入り、ワシントンがいた位置には長谷部が上がることとなりました。なお、この遠征にはコンディション不良のため永井も達也も帯同していません。
そんな中で「長谷部のワントップ」(アウェイで残り約10分、数的不利な状況下でキープ力のある選手を前線に据える)というオジェック監督の判断は理にかなったことと私には思えました。

0-0のまま時間が経過してきたこの試合、最大とも言える決定機は後半44分。スピードに乗ったドリブルで左サイドを崩した平川がゴール前へクロス、そこに飛び込む背番号17……。
しかし、残念ながら長谷部が頭で合わせたシュートはGKの正面。

「あれ決めていれば勝てたので、決めたかったです。GKの正面ではなく、もう少しズレたとこに狙いたかった」

そう口にして、長谷部は悔しがっていました。それでも彼は、ごくごく限られた時間でしたが、いきなり与えられた「ワントップ」という仕事を問題なくこなしてみせていたと思います。
今ではフランクフルトの最終ラインが定位置、『GKの後ろを守る男』などと形容されることもある長谷部誠。
後年、ドイツに渡った彼は

「ドイツ語の発音だと『サ行』が濁って『ザジズゼゾ』になるんで、俺も『ハゼーベ』と呼ばれます」

と笑いながら教えてくれました。
キャプテンマークを坪井に巻き直したことも含め、『ハセ』のこんな時代を知っているというのは、私にとっては大きな愉悦のひとつです。

撮影:清尾 淳

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