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②小齋→清尾その2「海老と赤眼とロブソン・ポンテ」

「レッドアイ」が通じなかったバーを辞した後、浦和からシドニーまで遠征に来ていたサポーターと合流。
今思えば、当時の私はサポーターの方々との距離はなるべく保っておこうと考え、その輪の中へ積極的に入っていくことを避けていた気がします。
自分の書き手としての立ち位置を、できるかぎり「中立」に近い場所に置いておきたいという気持ちがあったからです。
また、毎試合自腹を切ってスタジアムへ来ている彼らと、仕事とはいえタダで観戦している自分が同じような顔はできないという申し訳なさに似た感情もありました。
さらに言えば、サポーターとの関係を作り上げていくという点では清尾さんにはかなわないという諦観もあったのだと思います。

ですが、このときだけは清尾さんからの「この後サポーターと合流するけど、来る?」とのお誘いに、一も二もなく付いていきました。
たぶん、シドニーまで駆け付けた彼らに対して「戦友」めいた感情が、勝手ながら沸いていたのだと思います。海外での試合ならでは、ですね。

撮影:清尾 淳

酒を酌み交わしつつ「記者席から見て、僕らのサポートってどう見えますか?」と尋ねられ、リーグ優勝を果たした前年の2006シーズンに感じていたことを正直に語らせてもらいました。
「すごく失礼な表現で申し訳ないんだけど、コンサートみたいに感じる時がある」
「コンサートですか?」
「たとえば点を取ったときなんかは物凄く盛り上がる。コンサートで誰もが知る盛り上がる曲が演奏されるときみたいにスタジアムがひとつになる。でも、失点直後ってしばらくシーンとすることが多いでしょ? 以前は失点直後にシーンとする暇もなく『ウラーワレッズ!』コールが始まっていた気がするんだけど。試合展開に応じて一喜一憂するのではなくて、意気消沈しそうになるチームやスタジアムの雰囲気を変えるのこそ『サポーター』なんじゃないのかな?」
その場にいたサポーター諸氏は「たしかにそうかもしれません」と納得してくれました。
調子に乗って「ついでに言えば、日本代表の応援なんかでも耳にすることが多いけど、イケイケのとき『何とかのゴールが見た~い』ってチャント、『応援』じゃなくただの『要求』で味方にも相手にも失礼だよね」なんてことも言った気がします。

以上、試合とは無関係なことで随分と字数を費やしてしまいましたが、こういった思い出が残るのがアウェイの醍醐味ですよね。
さて、ようやく本題の試合について。

2007年3月21日、シドニースタジアム。
2000人を超えるサポーターが浦和から駆け付けた試合は、開始から相手にペースを握られて2分に失点。23分には追加点を許す展開。
「やはりオーストラリアは他のアジア諸国とは少し違う」との印象を抱かざるをえませんでした。前年の2006ワールドカップ・ドイツ大会では、グループリーグで日本代表チームがオーストラリア代表に痛烈な逆転負けを喫してもいました。その記憶を掘り起こされるような感覚がありました。

【もしかして、このままボロ負けして帰国することになるのか……】

そのときの正直な心情でした。
シドニースタジアムにて「何もできない」とでも言い表すしかないような時間が過ぎていくなか、反撃の狼煙をあげたのがポンテ。
前半30分、右からのグラウンダーのパスをエリア外・ゴール正面で迎えたポンテは、トラップせずにそのまま右足で叩きゴール左下に流し込みました。

撮影:清尾 淳

このシュート、ポンテはあっさりと決めていますが、簡単そうに見えて実は難易度高いですよね。
たとえばエリア右から来たボールに対しゴールの右を狙うのは、向かってくるボールのほぼ正面を捉えればよい。ですのでインサイドで当てるだけでも、それなりに強いシュートになる。
しかし、このポンテのゴールのように右から来たボールを左へ打つには、正確にボールの右半球を捉えなければいけない。ともすれば、しっかりミートできずに左へと流れすぎ、ゴールポストの脇を通過しがちです。

このゴール以降、試合の流れをレッズは引き戻していきました。
後半10分にはポンテのクロスをGKが取りこぼしたところを、永井がプッシュして同点。
結局、ポンテのゴールが産まれるまでの一方的とも言える展開を思い起こせば、「勝利に近い」と評していい引き分けという結果でチームは帰国の途につくこととなります。
もしポンテのゴールがなかったら。
レッズは戴冠どころかグループリーグ敗退を余儀なくされる可能性もあったのではないか。
私はそう思っています。

後に浦和でのポンテ最後の年となる2010年、シーズン最終号のMDPのコラムにて、彼について書かせてもらいました。
本人の話はもちろん、いろいろな選手から「ロビー」について聞かせてもらったことをまとめた内容です。
その原稿にも載せた鈴木啓太の言葉で、今回の返信を締めくくりたいと思います。

撮影:清尾 淳

「当時で言えば、闘莉王や長谷部、他の選手も含め、周りに『そうだ、行かなきゃ』って思わせるプレーができる選手はいた。ふつうはそこから『よし、点を取りに行こう』となるんだけど、ロビーの場合は、そういった喝を入れるようなプレーがゴールに直結しちゃう。だから、当たり前だけどチームの状況はガラッと変わる」

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