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「CARNE EQUINA」の思い出

パルマの中心部、ガリバルディ広場から
市役所と商業銀行の間にある
細い道を入っていく。

しばらく歩くと道幅は広くなるが
その先にある
アーケードつきの赤い建物と
新聞スタンドの脇から左に折れ
古い住宅街の路地に入る。

そこを更に進んでいくと
やがて路地の右側の一角に
小さな店が扉を開いて
客を待っている。

扉の上の漆喰に刻まれているのは
「CARNE EQUINA」という文字。

そう、
ここはカルネ・エクイーナの店、
「馬肉専門店」だ。

店内は非常に簡素で
石造りのカウンターがひとつだけ。
カウンターの上に見えるのは
大きな秤と
いつの頃からあるのか判らぬ程の
古い、しかし磨き抜かれている
鋳鉄の大きなミートチョッパー。

そして、店内は非常に寒い。

肉を並べたショーケースなどはなく
客は欲しい肉の部位を口頭で伝えるのみ。
店の主人は注文を聞くと
奥の部屋(冷蔵保管庫兼作業場)で
必要な部位を切り分けて来て
カウンターで下ごしらえして包み
客に手渡すのだ。

※ ※ ※ ※ ※

この店を教えてくれたのは
パルマ生まれのパルマ育ち、
生粋のパルミジャーノである
友人のマウリーツィオだった。

「肉はスーパーで買うものじゃない、
 肉屋で買うものだ」

そう言って、
この店に私を連れてきた彼は
カウンターの前に並ぶ
客の列に加わり
嬉しそうに肉を眺めている。

やがて彼の順番が回ってくると
おもむろに彼は口を開いた。

「馬肉、500グラム、ミンチで」

奥の冷蔵庫から
切り分けられてきた赤身の肉が
スイッチが入り動き出した
大きなチョッパーに入れられていく。

やがてミンチになった馬肉が
包まれて手渡されると
マウリーツィオは
一切の寄り道をせず
急いで家に肉を持ち帰る。

・・・といっても、
肉屋と彼の家とは
1ブロックも離れてはいないのだが・・・

「いいか、ミンチは鮮度が命だ。」
これも、彼の口癖だったな。

家に持ち帰られた馬肉は
一度包みを開かれ
刻んだニンニクを差し込んで
再度包んだ後、
10分ほど冷蔵庫で寝かされる。

やがて食事時に供される
皿の上に広げられた馬肉のミンチ。
ここに細かく砕いた岩塩と
たっぷり絞ったレモン汁と、
レモン汁と同じだけの量の
エクストラバージンオイル。

「馬肉のタルタルステーキ」
の出来上がりである。

聞けば、あのお店は
このタルタルステーキに最適の
ミンチを作ってくれる店として有名で
狭い路地の一角にあるにも関わらず
いつも行列のできる店らしい。

私もマウリーツィオの家で
このタルタルステーキを食べてみたが
確かに絶品で、尾を引く美味しさだった。

それからというもの、
パルマに住んでいた間中、
10日に1回はあの店に通い
馬肉のミンチを買い求めていたなあ・・・


日本に帰国してもあの味が忘れられず、
何度かタルタルステーキを食わせる店で
注文し食べた事はあるのだが、
パルマで食べていた「あれ」とは
どうしても違うものだった。

ないものならば、
少しでもそれに近いものを
自分で作るしかない!

・・・と、
自分流のタルタルステーキ作りに
挑戦することになるのだが、
これはまた別の機会に。


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