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「模倣」

他人の演奏を真似ることは
悪いことではない。

むしろ
積極的に良い演奏を選び
その演奏を真似ることは
上達の近道であったりする。

ただし、条件付きで。

その条件とは
「真似るなら、全てを真似よ」


たとえばデル・モナコ。

彼の力強い声に憧れる者は多いが、
彼がどれほどの力で声を出し、
どれほどの長い息でフレーズを歌い、
自由奔放に見えながらも
どれだけスクエアな構成で歌っているか、
真剣に分析してみるといい。

ブレスの位置、
吸気のスピードと深さ、
呼気をどのようにコントロールし
次の吸気までの音色を維持しているか、
どのテンポでフレーズを歌っているか、
緩急の揺れは具体的にどう行い、
それによって生じるテンポのずれは
どのように修正されていくのか・・・

彼の演奏から聴き取り
読み取らねばならぬポイントは
それこそ無数に存在するが、
それらの全てを真似なければ
模倣とは呼べないし、
完全なる模倣を行おうとしなければ
自分の中の
「模倣を行うに欠けているもの」
を見出すこともできない。

表面的なカッコよさ・・
その印象だけを曖昧に記憶し、
勝手に自分の脳内で書き換えて
それっぽく歌うというのは
真似と呼べる代物ではないし、
そこから得られるものは何もない。
(はっきり断言できる)

以上の事を肝に銘じた上で、
これという歌手の演奏を
真似て歌ってみるといい。

名人と呼ばれる歌手が
どのような呼吸をしているのか、
どのようなフレージングをしているのか、
どのような力配分をしているのか、

そして、
「なぜ自分にはそれができないのか」
「自分に何が足らないのか」
「それを克服するのに
 何を為さねばならないのか」、

本気で、正確に、細密に
名人と云われる歌手の模倣を行う事で
見えてくるものがあるはず。

おおよそ
パフォーミングアートと呼ばれる
ジャンルにおいては
必ず一度は要求される
「模倣」「模写」「見取り稽古」。

その理由と目的は
まさしくここにある。

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