「高校は大学受験のための予備校ではない」(校長) 【 いにしえの高校時代 10 】

「受験体制反対」
「高校は大学受験のための予備校ではない」
それが、わが県立高校の校長先生の方針であった。

わが校はメチャメチャ教育熱心な地域にあったが、校内は「高校生活を満喫しなさい」「青春時代を謳歌しなさい」という、おおらかで自由な空気に満ちていた。

私たちの県立高校と、隣町の賢い県立高校との違いといえば、中学卒業後の春休みに隣町の高校では宿題が出ていた。まだ入学前である。
わが校は宿題が無かったのでのほほんと楽しく過ごした。

そして、入学後ものんきだった。
隣町の高校は夏休みなどの長期休暇前は午前中だけの短縮授業をしていたが、わが校は球技大会である。バレーボールやバスケットボールなど好きな球技で他のクラスと対抗試合をしていた。順位を競うものではないので、ただただ楽しい時間だった。

わが校で一番力が入っていたのは、体育祭と文化祭である。わが校の文化祭が面白いというのは他校にまで知れ渡っていた。
思い返しても、のんびりした学校である。

また、生徒総会で「制服廃止」の希望が出たときも、職員会議はすぐに通過して、生徒の望み通りに制服を廃止し、生徒手帳には「生徒の自主性に任せる」と一言書かれるだけになった。

そして、私服になっても何の問題も起こらなかった。
高校は新興住宅街の上にある山を切り拓いたところにポツンとあったので、遊びに行くところが無かったのがよかったのかもしれない。近くにはゴルフ場と河原と一戸建ての家しかなかったのだから。

ちなみに、廃止された制服は、このあたりでは有名なデザイナーがデザインしたものだった。特別オシャレではなかったがやぼったくもなかった。女子生徒たちはいつも冗談で、「ゴミ箱に捨ててあったデザイン画を拾ってきたに違いない」と言って笑っていた。

そういう能天気な高校生活を過ごして困るのは高三になって進路を考えるときだった。

一応、受験対策として高三になると、一週間に数コマだけ選択授業があった。大学のように、その時間だけその課目を選択した生徒が各クラスから集まって一緒に授業を受けるのだ。

わが校では、私たちが高三のときに初めて取り入れられたシステムだ。私の周辺では、このシステムを取り入れた高校は他になかった。新鮮で楽しかった。

それ以外は通常の授業であるが、クラスは文系と理系も分かれておらず、男女半々で文系理系の受験組だけでなく就職組も共に机を並べていた。いろいろなタイプの生徒が同じクラスにいるのは自然で楽しいものであった。

そして、私の友人は国立大学に進学し、私はこの地方で誰もが目指す有名私立大学「〇〇〇〇」に進学したので、それほどひどいレベルの高校ではなかったのかもしれない。私たちの頃は受験生が多かったので、私が受験した大学も「史上最高倍率」と新聞の見出しになった。合格できてよかった。

突然の高校入試制度変更により全く希望していなかった高校に嫌々入学するはめになったのだが、この高校に入学して運がよかったのかも、と今はそう思う。

まぁ、入学前は他人から「アホ校」と呼ばれる高校なんてイヤだったし、在学中は悩みだらけで、そんなことを思いもしなかったけれど……






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