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【読書感想】津原泰水「エスカルゴ兄弟」


 「エスカルゴ」という日本人にとって馴染みのない食材の魅力に取り憑かれた男達が本格エスカルゴ・フレンチ店を成功させるべく奮闘する物語。
 作者の津原泰水さんはホラー作品で有名な小説家。グロテスクで精神的にくる物語も多く、なかなか刺激的でダークな作風の作家さんだと認識しています。津原作品をいくつか読んだ読者なら、この作品もまた、そんなホラー小説だと思ったんじゃないでしょうか?「タイトルからしてカタツムリ採集に夢中になりすぎた兄弟が周囲を巻き込んで破滅する物語?それともカタツムリみたいな渦巻き状の物が人間を恐怖に陥れる、伊藤潤二の某ホラー作品のような話か?」なんて。

でも、まさか、本当に

エスカルゴを美味しく料理することに情熱を注ぐ人達の話だったなんて…

個人的にまず、それに吃驚しました。

 面白いんです。グルメ小説としても、本格フレンチ店として成功すべく頑張るビジネス物として読んでも。そして、それを取り巻く人間関係の描写も。人生色々、上手くいかないときもある。でも、手を差し伸べてくれる人もいるし、意外なところで人間関係が構築されて予期しない未来につながる。そんな人と人との繋がりにほっこりしたり。
 しかしその一方で「いや、どんでん返しなホラー展開が最後はやっぱり待ってるんじゃないか?」と最後まで疑いながら読んでしまいました。それくらい今まで津原さんが発表してきた作品と毛色が違うんですよ。
 そう考えるとこの表紙もっと違うデザインにできなかったのかなあ、と余計な事考えてしまいます。黒い背景に赤い文字で、抽象的なカタツムリのイメージ図…

この見た目で誰がこの本を人情系グルメ小説と思うんだ!?

 津原泰水という作家を知らなくても不穏な印象を受ける表紙。ホラーやミステリー小説では?と勘違いする人多そう。
 物語外で思うところはありますが、小説は面白いです。エスカルゴってこんな食べ方、調理方法があるんだ、とただただ興味深く、どれも美味しそう。そして、個性的なキャラ達がぶつかり合って諍い起こしながらも何とかお店を成功させようとする様子が熱く、面白おかしい。また、この作品のもう一つの主役である食材「うどん」についての描写も面白く読めました。「うどん」にこんな歴史と複雑な人間関係が絡んでるなんて…どこまでがフィクションなのか、関係者に聞いてみたくなる…

作中に出てくるエスカルゴの仕入れ先は実際に存在する国内企業をモデルにしている様子。そちらに実際足を運んで聖地巡礼するのも一興です。

(↑多分ここっぽい)


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