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ムーディーな照明と轆轤の話

5月17日 晴れ

本日のBGM ハイファイセット

夜の工房でろくろを回してる時は
裸電球の明かりの下、ちょっと雰囲気ある感じで
作業しています。

庚申窯の私以外のメンバーは
視覚的にチャレンジされた人たちなので
夜中に白色のギンギンな蛍光灯でも平気で、
その蛍光灯の色が一本ごとに違うことにも気づかないし
かなり明るくしていないと
手元がよく見えないということで
いろいろな部屋のほぼ全ての照明が
白色か昼白色の蛍光灯だったのですが、

私のアンチ蛍光灯キャンペーンにより
電球はオレンジ色のやつに差し替えられ、
ロングな蛍光灯も電球色のやつを
30本セットとかで買って差し替えまくり、
現在メインで使用する場所は
一応温かみのある感じの照明になっています。
それが変わったことにも気づかない人たちだけど。

しかし多くの作業においては、
高台を削るとか彫刻系とか
ペーパーがけなど、ほとんどは
明るい方がやりやすいので
蛍光灯が必要になります。

ろくろを回して器を作る時だけ
そんなに明るくなくてもいいので
電球の明かりで作業をしているんですね。

なぜ暗い中でろくろを回すのかというと、
もの作りにおいて、
やはり視力はかなり大事であると思うので、
必要のない時はなるべく視覚の負担を減らすよう
心がけて生活しており、その一環として
明るくなくて済むなら暗い環境を選びたい
というのが理由その1、

もう一つはろくろを回してる時
そんなに何かを見ていないし、目で見ずに
手の感覚で形を作りたいということで
ムーディな照明で器を作っています。

私にとってのベストなもの作り
というのは手作業を最小限に抑えて作る
ということで、
手間暇かけるのは粘土を作るところまでで、
形を作る段階ではあんまり粘土に触りすぎるのは
いい作り方ではないと考えています。

例えば
絵の下書きで何本も線を引いて
いくつもの線で心地よい輪郭を描き出して、
余分な線に消しゴムをかけていく、
という作業は
より洗練されれば
最初に引いた一本の線が正解の線になっている
という風になるのではないでしょうか。
そのような感覚がろくろで器を作る際にもあると思います。
書道の筆の運びに近いものがあるかもしれません。

ろくろで形を作るというのは
回転エネルギーの方向を手で変えているわけなので、
手に込める力をなるべく小さく
手が触れる時間もなるべく短く
というのが
私の目指す理想になります。
しかしながら現状はその状態に全く及ばず、
器一つ作るのにえらい時間がかかって
なかなか先は長いと痛感しておる皐月の夜更けです。

特に今 同じ形のものを数多く作るという
仕事を手掛けているので、
いわゆる修行というのを経ずにきた私の
一番苦手な分野で、ろくろを使った技術の不足を
これまた痛感しておるのです。

他の産地の人の話を聞いたら
一番最初
同じ形のものを1000も2000も作らされて
ダメなのはガンガン潰されるという荒行があるそうで、

それは作ることが嫌になったり
創造性が固まったりして
あんまりよくないんじゃないかしら
と思っておりましたが
今になって それをやらなかった分のつけが
回ってきていますね。

現在のもの作りにおいて
同じ形を正確に作るということが
どれほど必要なのかはわかりませんが、
少なくとも技量があるとそこからの応用が効くので、
応用ばかりしてきた私はセルフ修行で
今から基礎を身につけねばと思いました。

でもどっちがいいのかはわかりませんけどね。
3Dプリンターの精度が上がったら
原型の1点を作り込める才能だけが必要かもしれないし、
手作りだからひとつひとつ違うのは
むしろいいということもありますし。

でもそれは言い訳のようでもあるので
うまくなりたいと思います。
なるべく最小限の手の動きで。
なんか合気道の理合のようですな。
目指せ植芝盛平!

高鶴裕太 コウヅルユウタ
陶芸家
1991年生まれ
2013年横浜国立大学経済学部卒業
上野焼窯元 庚申窯3代目

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