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生態系

 小学生の夏休みあなたは何をしただろうか。いや、何を成し遂げられたのか。私達は1つの生態系を作り変えてしまった。

 アスパルトの溶ける匂い。灼熱のマンホール。強い光にあてられ色濃くなる自身の影を見つめながら私達は小さな探検にでた。無限とも思えるこの自由な時間にいてもたってもいられなくなった少年達の行動力は凄まじい。とわいえこの山に囲まれたド田舎にできることなどせいぜい川遊びくらい。
 そんな毎日に少し刺激を求めた私達はとある場所にいく。そこにあるのは道路に面した人の家の庭である。そこには小さな池と呼べるかどうかも怪しいほど小さなな水溜場があった。中を見ると無数のザリガニが飼われている。そこに面白半分で食べ物を投げてた。それに群がるようにザリガニたちが無数の個体から1つの赤い塊へと変貌する。ひらめいた。

 少し夏休みの宿題の事が脳裏にちらつく頃、私達はザリガニ釣りにいそしんでいた。そのころ義務教育の前半も終えていない私達にとって倫理観などただの食べれないものであった。当然家主に許可などとっているはずもなく車のない時間を見計らいザリガニ釣りにいそしんでいたのである。(後に家主には許しをえている)そんな釣りバカライフを送るなかで一つ大きな問題があった。釣ったザリガニの使い道である。釣ったものを元に戻すなど釣れていないと同等だと捉えた私たちは近くの川に放ち、自由を与えるとという大義名分を得た。

 親に宿題の状況を確認され怒られた頃池に無数にいたザリガニは目で数えられる程になっていた。私達はここでやっと自分達の行いに少し焦りを覚える。まあ、と言ってもそんな事すぐに忘れ夏休みの終盤を楽しむべくクーラーの効いた部屋でスマブラをしていた。そんなこんなで夏休みを終えた私達は何も考えずに過す日々がしばらく続いたある日。ふと、友達と川辺を歩いていた時である。川にある水草の緑の隙間に無数の赤い点がある。少しの好奇心と私達かもしれないという焦りを払拭する為に確認をしにいく。そこには見事に大繁殖した少し前私達が毎日見ていたザリガニの姿がそこにある。言葉にならない焦りを隠し知らぬふりをして日常を送る。次の年私達の川に無数に生息していたメダカの姿はそこになかった。置き換わったようにいたのは数え切れない赤いザリガニ。

 私達は川の生態系を崩してしまったのである。アメリカザリガニがその川の生態系のトップとなってしまった。

 眠い目を擦りバイトに出かける朝。夏になりかけの生温い朝が私を包む。駅に向かう途中その川には小さなザリガニの赤ちゃんがいた。そうして私達は成長していく。

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