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普通の人でも映画をちょっと深く楽しめる、香曽我部流鑑賞術


はじめに

「名作と呼ばれてる映画をレンタルで観たけど、ちっとも面白くなかった。」
そんな経験はないだろうか?分かります。私も何度もそんな目に会いました。
 ではその原因は何か?それは映画を楽しむための見方を知らなかったからです。あらゆる表現にはそれぞれの媒体毎に読み方というのがあります。例えば宗教画を読み解くにはあらかじめ聖書なり経典なりの前提知識を知ってないと意味が分かりません。同じように日本中の誰もがごく普通に読める少年ジャンプ作品も、日本のマンガ独自の表現に慣れてない海外の人は読み方が分からず戸惑うそうです。
 ということで今回は我流ではありますが、私が普段やっている映画の鑑賞の仕方を紹介したいと思います。映画評論家の先生が語るようなご立派なものではありませんが、誰でも手っ取り早くできる方法のひとつとしてお役立ていただければ幸いです。

映画は「動く写真」である―画の美しさを見よう―

さてそもそも映画というものの歴史ですが、19世紀末にリュミエール兄弟なる人物によって映写機が発明されたのが最初といわれています。

 その映写機の原理ですが一言で言うと、写真でパラパラ漫画をしたものです。写真用カメラを魔改造したような機械を使って一連の連続写真を高速で1枚ずつ見せることで、パラパラ漫画の原理で写真が動いて見えるという要領です。つまり、映画のルーツは写真にあるのです。
 ルーツが写真にあるので表現の手法も自然と写真と似てきます。写真では構図や光を調節して美しい画を作っていきますが、映画も同じ手法が使われています。例えば『フルメタルジャケット』『シャイニング』などキューブリック監督作品では一点透視という写真の世界ではポピュラーな構図が多用されて、引き込まれるような印象を作っています。世に名作と呼ばれてる映画はこのような手法をフル活用して、大体どのタイミングでスクショしても美しい画になるように作られています。

 白黒映画の時代から現代まで「動く写真として、どこで止めても美しい画作り」への映画人たちの熱意は引き継がれています。何気なく見てた名シーンをほんのちょっと一時停止して、画の美しさに触れてみてはいかがでしょうか?

映画は「見る小説」でもある―役者の表情に注目しよう―

映画は視覚に訴える映像だけでなく、ストーリーも見どころの一つです。脚本がよく練られた映画は、見終えた後に良い小説を読み切った後のような清々しさがあります。いわば映画は「見る小説」としての側面もあると私は考えています。
 さて、小説では全てのシーンを読者が想像しなければいけませんが、映画ではなんと制作陣がこれらすべてを映像化して目に見えるように作ってくれています。これはありがたい!その中でも特に注目して欲しいのが登場人物の表情です。
 突然ですがこれをお読みの皆様は、「初めて人をあやめた新兵の顔」を見たことがあるでしょうか?おそらく平和な日本に暮らす人ではほとんどいないのではないかと思います。「少しずつ狂気に染まる貧しい精神病患者の心の内」も健康で経済的に不自由なく暮らせる多くの中産階級以上の人たちにはほぼ無縁かと思います。

しかし映画なら、これら現実では遭遇が難しい言葉にならない心の動きを、出演者たちの全霊の演技を通じて追体験することができます。自分の知らない境遇にある人の心の内を覗けるのも映画の醍醐味です。

世界観や設定を考察しよう

 舞台やロケ地はいわば”第三の主役”。同じ「桃太郎」のストーリーでも、舞台が「昔の日本の村」から「近未来のニューヨークのオフィスビル街」に変わったら全く別の話に変わってしまいます。舞台は役者や脚本と共にストーリを大きく動かすファクターなのです。これをつぶさに観察していくことで映画をより楽しむことができます。
 例えば『ローマの休日』。舞台となるローマの街は美しくにぎやかですが、よくよく観察するとそこかしこにローマ帝国の遺産があり、この町の持つ歴史や伝統、品格を観客へ伝えます。まさにヘプバーン演じる優美なお姫様のお忍びデートにうってつけのスポットです。

おなじお姫様が出る映画でも、これがもし『風の谷のナウシカ』の腐海(毒の胞子が充満する危険な森)のようなスポットだったら全く違った印象になってしまうでしょう。ヘプバーンのような華奢なお姫様ではサバイバルできそうにありませんし、そもそも危険な場所なのでデートしてる暇自体がなさそうです。ローマの街だからこそ『ローマの休日』はヘプバーン主演のロマンス映画という形であれたのです。
 また、ロケ地や世界観を通じて異なる時代や地域の文化を知ることもできます。貞子が出ることで有名なホラー映画『リング』(1998年)は怪奇をテーマにした現代劇、つまり公開当時の日本が舞台なのですが、公開から20年以上経過した現在、当時の家電、車、ファッションなどの90年代カルチャーのタイムカプセル的な見方もできる作品になりました。呪いのビデオ(貞子を呼び出す呪具)はVHSテープなんですが、DVDとブルーレイディスクが主流となった令和の日本ではすっかり骨董品になりましたね。
 第三の主役である舞台は、観客に膨大な背景情報を伝えつつ、映画を大いに盛り立ててくれるのです。


最後に…2回目も見てみよう

2回見ることで1回目に気づけなかった伏線や細かい演出、新たな解釈に気づけます名作と呼ばれる作品はそのような見返しに何回でも耐えられる深い描写がなされています。
 この点で特に有名なのは『千と千尋の神隠し』でしょう。独特の世界観で繰り広げられる寓話的なストーリーを様々な解釈で楽しめる作品であり、見るたびに新たな発見を与えてくれます。

以上。香曽我部流の映画の鑑賞法でした。少しでもお役に立てたなら幸いです。
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