天気の子が上映になったということで見に行きたいのだけど、
最近、新海誠監督の前作品「君の名は」に関して思った事があるので久しぶりにnoteを書く。

この前、世田谷パブリックシアターで「ややこしや～」という野村萬斎さんの狂言の戯曲の一節を聞いた。（ここでの演出も時空や重力を感じて非常に面白かったが、これはまた今度）

この歌詞と「君の名は」がやけにリンクした。

「ややこしや」と「君の名は」

ややこしや　ややこしや
ややこしや　ややこしや
ややこしや　ややこしや
ややこしや　ややこしや

わたしがそなたで　そなたがわたし
そも　わたしとは　なんじゃいな

野村萬斎さんは「ややこしや～」のリズムに乗せて歌うが、
君の名は。は、RADWIMPSに乗せてややこしさをキャッチーに映像で表現する。

私が瀧くんで、三葉がオレ、それぞれの生活を行ったり来たりでややこしい。
私は男であなたが女？　オレが女でお前が男？
都会の私と、田舎のオレ。

ややこしや　ややこしや
ややこしや　ややこしや

おもてがござれば　うらがござる
かげがござれば　ひかりがござる

表の現実世界と、裏にある過去の世界
影という過去から出てくる三葉と、過去を光に変えたい瀧くん。

ややこしや　ややこしや
ややこしや　ややこしや

ふたりでひとり　ひとりでふたり
うそがまことで　まことがうそか

二人で一人、一人で二人。
瀧くんは、過去の誠を嘘にしたい。

ややこしや　ややこしや
ややこしや　ややこしや
ややこしや　ややこしや
ややこしや　ややこしや
ややこしや！

幽玄と時空

能には時間を飛び越える装置としてあの世がある。あの世から出てきた平家の侍が舞台上に出てくると、時間が過去に遡る感じになる。
君の名は。で、言えば、三葉と瀧くんは、時間を行ったり来たりする。

あの世との接続が日本独特の幽玄な空間。能や狂言の世界では幽玄を表すために様々な音響や舞台装置が使われる。
君の名は。では、空気が澄んだ山の上で訪れる「かたわれ時：黄昏時」が、幽玄だ。

夕日が沈んで空が暗くなるまでの一瞬に感じる幽玄。
あの世とこの世がつながる黄昏時のみ、二人は時空を超えて出会うことが出来る。

ティアマト彗星と祭り

君の名は。では、ティアマト彗星が落ちる日に祭りがある。
祭りとは、神を奉（たてまつ）るという事。
神と人の間を取り持つ祭りが行われているその日は、糸守町では神と人間が接続できる唯一の日。
その日だけ、奇跡を起こせる。
黄昏時で二人が会えたのも、過去を変える事が出来たのもこの日だったから。

繋がっていない時空

彗星から地球を救うには、現代から見た過去とは違う可能性が必要になってくる。
奇跡を起こせたとしても、過去と現在は繋がっていない。
救った先は、おそらく色々な可能性が同時に成立している多元宇宙の中の違う宇宙。

人は多元宇宙を行き来出来ない。だから本来、瀧くんと三葉は再会する可能性はなかった。（ドラゴンボールでいうとトランクスの未来と同じ）

何故再会できたのか？

瀧くんや三葉の行動で未来はいい方に変わった。
けど、違う宇宙の話だから二人は繋がっていない。
しかし、何故か繋がっている気がしてもやもやする。
それが解消できないで生活している二人。

そこで偶然というか必然的に二人は再会する。

二人が再会するのは須賀神社の前の階段。
須賀神社は元々は稲荷神社。稲荷神社の本尊は宇迦之御魂大神。この神様は保食神とも言われ、五穀豊穣の神様。
稲荷の名からもわかるように「稲」の豊作を願う場所。口噛み酒の元はお米。
瀧くんが三葉の口噛み酒を飲んだことによって、二人は少しだけ繋がる。

二人が再会できた稲荷神社の前には少しだけ時空の残り香が残っていた。

さいごに

君の名は。は、普通に見ると過去と現在を行ったり来たりして、お互いの境遇の面白さやキャッチーなメロディーが心地よいラブストーリーだ。
そして、ティアマト彗星の危機を乗り越えた上で切なさを最後に解消できる素敵なハッピーエンドがある。

けど、そこでは能や狂言世界。時空や幽玄。仏教世界や神道世界が実に上手く舞台装置として使われている。

天気の子を見る前に、再度「君の名を」について考えられた事はとてもいい出来事だった。

参考：仏教世界と狂言

狂言とは仏教用語が語源。時代は室町。鎌倉仏教から始まった阿弥陀仏を本尊とする浄土真宗が広がっていた。

境地に達したものを阿弥陀如来から引用して中世以降に「阿弥」とつけて呼ぶようになった。
それが観阿弥や世阿弥。この時代に能や狂言が生まれて今に至る。

仏教の中で多元宇宙に存在しているのは阿弥陀如来。
この辺りの考えもエッセンスとして感じられた。