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経済が破綻した街で、全米屈指のオーケストラが成し得た奇跡の回復【前編】

2017年7月13日(木)、東京芸術劇場のシンフォニースペースにおいて、公益社団法人日本オーケストラ連盟が主催するトークセッションが開催された。

<デトロイト交響楽団~コミュニティーとオーケストラ~>
経済が破綻した街で、全米屈指のオーケストラが成し得た奇跡の回復
――悪循環をどうやって断ち切ったのか――

このイベントは、デトロイト交響楽団(DSO)の19年振りの来日公演にあわせて企画されたもので、DSOの事務局長(President & CEO)アン・パーソンズさんと、バス・トロンボーン奏者ランダル・ホーズさんが登壇。そしてモデレーターは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング 芸術・文化政策センター主席研究員/センター長の太下義之さんが務めた。

どんなトークが繰り広がられたのかを、速報版として箇条書きでご紹介していこう。

太下
⇒デトロイト市の概略について
・デトロイト市が財政破綻(負債は180億ドル!?)
・Big3と呼ばれる自動車産業の斜陽
・50万人超え、日本でいうところの政令指定都市
・白人比率が一番低く、黒人比率が一番高い
・1960年代 モータウン、1980年代デトロイトテクノ、1990年代エミネム……等々、様々なポピュラー音楽がデトロイト市から登場

パーソンズ
⇒事務局側からの視点で再建を語る

・DSOは、1887年創立の古いオーケストラ
・オーケストラはどの都市にあるかということに大きく左右される

・私は2004年に入職したが、今日は経済的な雲行きが悪くなった2007年ぐらいからの話をする
・デトロイト市が財政破綻する前に、クライスラーとGMが倒産
・倒産自体よりもその後に何が起こったかが重要で、GMは4ヶ月で建て直した
・デトロイト市の場合、グランドバーゲンという仕組みで8億ドルを受けられたお陰でDSOは倒産を免れた
・それでも多くの人が職を無くし、年金も失い、観客も失った

・倒産しないために、以前よりも良くなってやろうというチャレンジをおこなった
・重要なのは行動を変えること。すべての見直し。何をどこで演奏し、いくらもらうのかを考え直した。
・6ヶ月のストライキがあったが、重要なストーリーはこのストライキのあとに起こった
・本拠地のコンサートホールではなく、地域にまわって演奏するようになった
・オーケストラのコンサートに来やすくするために値段を下げ、コンサートの数も減ったので、完売も続いた。

・その結果、各地域と新しい関係を築けるようになった。
・収入も少しずつ回復、寄付も集まりはじめた。
・その後、インターネットでライヴを無料で公開するようにした
・最後に大事になるのが楽団員。DSOがコミュニティのなかで、どんな役割を果たすことができるかを話し合い、それを契約書のなかに盛り込んでいる。
・大変な時期というのは、最もクリエイティブで、イノベーションを考えなければいけない時期でもある。だから目をつぶってしまったら、助けもこなくなってしまう。
・お客様、コミュニティ、ファミリーとの関わり方が大事。

ホーズ
⇒楽団員側からの視点で再建を語る

・初来日は1980年代にウディー・ハーマンオーケストラ、今までに10回以上来日
・DSOにはストライキが終わった2010年に入団。
・音楽家は頭が硬い傾向がある。
・個人的には2度ストライキを経験。1987年と2010年の2度、どちらも景気後退のストライキ

・2010年のDSOのストライキでは、楽団員側には頑固な弁護士がついており、歩み寄りの余地なしで交渉に臨んだ
・1シーズン、52週間という契約条件を手放したくない
・でも52週間、同じ給料に固執していたら今頃オーケストラは消えていた。
・オーケストラは人生でもある、楽団員で話し合って妥協することに
・結果、契約は35週間に減り、給料も3割減。コンサートマスターも他のオーケストラにうつった。

・回復する上で大きかったのは理事会の変化
・保守的だった理事会で、チェアマンが皆から愛されるフィッシャーさん。フィッシャーさんからの良いことをしようという提案。
・私たちの契約書をシンシナティ、ダラス、ミネソタなどのオーケストラ(※いわば格下のオーケストラ)と同等にしなければいけない。
・けれども次第にオーディションにくる奏者のレベルが上がった
・誠実であること、コミュニケーションをとることという新しい文化が根付いてきたからでは?

・実はストライキをしていたとき、悪魔のような交渉相手がアン・パーソンズさん(笑)
・事務方の大変さは理解しつつも敵だった。
・ところが彼女は素晴らしいリーダーシップを発揮し、コミュニケーションをとっていった。
・新しい契約書には結果的に満足している。給料も徐々にあがっている。

・オケの休暇が増えたお陰で、各自自由な活動。私は、松本のセイジ・オザワ・フェスティヴァルにも参加している。
・最も多くの満足度が得られているのは、コミュニティとの繋がり皆がオーケストラに関心を持ち始めているということ。本当に嬉しい。

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