2018年ベスト・トラック トップ5【Classical篇】

ラティーナ2019年1月号で、「2018年ベストアルバム」として10枚選び(※ただし順位は付けていない)、200字程度の総評を寄稿した。こちらは個々の評が出来ないため、かなり戦略的なチョイスとしている。ご興味ある方は是非雑誌をお手にとってもらいたい。

ここでは、ラティーナへの寄稿を補うものにしつつ、内容を被らせないようにするため、アルバム単位ではなく、具体的なトラックに絞って、年間ベストを選出してみよう(ただし、下記のナンバーは順位ではない)。

1)ヴィキンガー・オラフソン『ヨハン・セバスティアン・バッハ』より「3声のシンフォニア第15番 ロ短調」

今年のディスクから1枚選べと言われれば、これになる。残念ながら、来日公演は予定が合わず、私自身は聴きにいけなかったのだが、実演でも想像を超える評判をあげていたから、“ホンモノ”と断言してよさそうだ。このまま、いけば第2のグレン・グールドになるに違いないだろう。

ただし、それはグールドのような演奏をするという意味ではない。グールドのように、音楽関係者以外の文化人から偏愛される存在になるであろうということだ。クラシック音楽という世界のルールから飛び出ても、魅力的な音楽として受容され得る演奏が出来るピアニストとして、今のうちからご注目いただきたい。

個人的なベストトラックとして選んだのは「3声のシンフォニア第15番 ロ短調」。本来は、ピアノ学習者のための教材という側面の強い楽曲なのだが、これまでとは全く異なる音楽として、違和感なく再構築している手腕には、いくら驚いても驚き足りない。

非クラシック音楽リスナーにはもう一枚。いわば「リミックス」篇として出された『Bach Reworks / Part 1』というアルバムも是非あわせてお聴きいただければ。

2)マウリツィオ・ポリーニ『ドビュッシー:前奏曲集第2巻』より第12曲「花火」

同じクラシック音楽のピアニストでも、こちらは間もなく77歳の大御所。ただし、この10年以上(20年以上?)、ポリーニのライヴはあまりに当たり外れが激しい。いや、正直にいえばハズレの方が多い状態だった。その悲惨さに、誰かが引退宣告をすべきでは?……という意見さえ、最近は目立つようになってきたと感じられるほど。

しかし2016年4月、久々に聴いたポリーニのリサイタルでは正直驚かされた。前半のショパンはお世辞にも全く褒められたものではなかったが、後半のドビュッシーの前奏曲集第2巻は、往年のポリーニの切れ味こそなかったが、別の意味で大変興味深い演奏であった(詳細はこちら)。

わかりやすいところでいえば、演奏頻度の高い「花火」。技巧が前面にでてしまう演奏も多いなか、一本の物語に無理やり回収することなく、質の異なる多彩な響きを時間軸にデザインしていくことで、ドビュッシーが20世紀の音楽へ多大な影響を与えることが出来たのかが理解できたように思う。

そもそも前奏曲集第2巻に対して、どのような印象を抱いているかによって評価も変わってくるだろう。往年のポリーニの影を追い求める向きには、低評価もやむなきだが、是非新たな魅力を感じ取っていただきたいところ。

3)パトリツィア・コパチンスカヤ『Duex』より「Poulenc: Violin Sonata, 3rd movement」

ツィンバロンとヴァイオリンのデュオを組む両親を持つコパチンスカヤ。ヴァイオリンの演奏に留まらない彼女のパフォーマンスも話題を呼び、気づけば「次に何をしでかしてくれるのか」が、いま最も注目されるヴァイオリニストとなった(詳細はこちら)。

そんな彼女のイロモノ的ではないヴァイオリニストとしての魅力がつまっているのが、本トラックである。フランスの作曲家プーランクが、詩人ガルシア・ロルカの思い出に捧げた作品なのだが、これまでの演奏全てが生ぬるく感じてしまうほど。ここまでアグレッシヴに抉りこむような突き詰め方がかつてあっただろうか。2019年1月には、本曲を含む来日公演も控えているので是非ご注目いただきたい(フィリアホール公演は残席あり)。

4)加藤訓子『Steve Reich: Drumming』より「Part III」

※本盤はサブスクリプションサービスでは配信されておりません。

クラシック音楽を演奏する際、現代の「モダン楽器」ではなく、作曲された当時の楽器と奏法で演奏しようとする所謂「古楽器」で取り組むことが普通になって久しい。こうしたアプローチは拡大を広げ、今や20世紀初頭の音楽まで「古楽」的アプローチが取り入れられることが珍しくなくなりつつある。

本作はスティーヴ・ライヒが1971年に完成させた、初期の代表作のひとつ。加藤はこの作品を世界で初めて、たったひとりで録音してしまった。打楽器全パートは当然として、声楽や口笛、更にはピッコロ(フルート属の楽器)まで。その結果にはライヒ御本人も驚いたようで、これまで聴こえてこなかったものが浮かび上がってきたのだ。

今回の加藤のアプローチはもちろん古楽ではないのだが、作曲された当時の演奏……ではなく、それ以前に作曲者自身の頭に鳴っていたであろう原初へ、結果的に辿り着いたのだとしたら? 最新テクノロジーを用いながらも、ある種の古楽的アプローチのように捉えられるかもしれないのが面白い。

何がそんなに斬新な録音なのかは、ぜひ既存録音(それこそ加藤が録音に参加した盤など)と比較してみていただきたい。

5)The Rev Saxophone Quartet『Fun!』より「坂東祐大:Mutations:A.B.C.」

初めて聴いたときに、腹の底から爆笑したことを覚えている。なんだかよく分からないものが、少しずつ形となっていき、その結果みえてきたものが、あまりにも馴染み深いものだったからだ。一言でいえば「逆変奏曲」。最後の最後に、主題(もととなったメロディー)が登場するのだが、それが何でどう演奏されるのかにご注目あれ。

この痛快さは、意外かもしれないが「カメラを止めるな!」にも通じるものであろう。多くの人が、2018年ベスト映画に挙げた作品がお気に召した方は、是非こちらの作品もお聴きいただきたい。


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小室 敬幸

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