元・アジャイル開発を完全に理解したチームが作ったプロダクトと後日談
10月から12月にかけてFISHチームは某企業と共同で聴覚障害者向けのプロダクトを開発した。
チーム結成から開発に一区切りをつけた12月末までのお話は、以下のnoteにて詳しく書いている。
ここでは、聴覚障害者が持つ課題とプロダクトが持つ価値、そして2023年度 enPiT筑波大学・琉球大学 PBL成果発表会で発表したことを書いていく。
見落とされがちな聴覚障害者の課題
昨今、共生社会の実現を目指してバリアフリー化が進んでいる。それは聴覚障害者も例外ではなく、UDトークやYYProbe、こえとらなどのコミュニケーション支援アプリがリリースされている。
これらコミュニケーション支援アプリは聴覚障害者が音声情報や会話の内容を把握できることを重視して作られている。
しかし、聴覚障害者が話をしたい時にスムーズに聴者に伝えられることを重視したアプリやシステムはほとんど見かけないのだ。
聴覚障害者にとって、会話の内容や音声情報を把握することは難しいと同時に他人に話を音声で伝えることも難しい。音声が聞こえないから、どう発声すればいいかのも分からないからだ。
発声出来ないがゆえに話を音声で伝えるのが難しいという課題があるにも関わらず、その課題にアプローチしたアプリやシステムはほとんど見かけない。
まさに、「他人に話を音声で伝えることが難しい」という課題は見落とされがちである。
その課題を解決しうるSekoeという存在
そこで、本学の学生3人と某企業の担当者と共にチームを組み、10月から12月にかけて聴覚障害者からの発信に対する課題を解決するプロダクトを開発した。
ここでは、聴覚障害者1人と聴者5人程度が参加するリモート会議を想定し、その中で聴覚障害者からの発信に対する課題として、以下の3つを特に重要視した。
聴覚障害者がチャットで送信したが、聴者に気付かれない
聴覚障害者がチャット入力中であることを聴者に気付かれない
聴覚障害者がチャットを入力する間、聴者を待たせてしまう
いずれも、チャットを入力する間に話が展開されてしまい、チャット送信タイミングが合わなくなることや展開された話の内容を掴みにくくなる、結果的に発信することに臆してしまうといった問題が発生しうる課題になる。
それらの課題に対して、FISHは『Sekoe』というコミュニケーション支援ツールを開発しました。
主な機能として、聴覚障害者が送信したチャットを音声で読み上げるという機能がある。この機能によって、チャットが送信されたことを聴者が気づくことができるということを想定している。
この機能だけなら、他に音声読み上げアプリが既に存在する。しかし、私たちは以下の機能を実装することで、更に聴覚障害者が発信しやすいコミュニケーション支援ツールを目指した。
呼びかけ声を発出する機能(聴覚障害者がこれからチャット入力することを聴者に知らせる)
句読点が入力された時点で、入力されたテキストを自動で読み上げる機能(暫定的な入力内容を聴者に伝える)
送信したチャットをログに残す機能(聴者が聞き漏らしたチャットをスムーズに再送できる)
よく使う定型文を登録する機能(よく使う文の入力時間を短縮できる)
これらの機能で、「聴覚障害者がチャットで送信したが、聴者に気付かれない」「聴覚障害者がチャット入力中であることを聴者に気付かれない」「聴覚障害者がチャットを入力する間、聴者を待たせてしまう」という課題を解決しうることをデモプレイで確認できた。
聴者にも伝わった"価値"
こうして、聴覚障害者が持つ課題に着目してそれらの解決を目指して開発したプロダクト『Sekoe』を2023年度 enPiT筑波大学・琉球大学 PBL成果発表会で発表した。
ありがたいことに、筑波大学の学生や教員から「すごい!」「よくできている」との好評をいただけたようです。それだけではなく、優秀賞まで頂いてしまいました。
優秀賞を頂けたのは、聴者も間接的に価値を提供できるものだったからだと今となってはそう思っています。
確かに、我々は聴覚障害者の立場から課題を考えて、課題解決という価値を提供できる機能を実装した。
一方で、その課題は聴者にとっても同じことだった。上記で挙げた課題について聴者を主語に置き換えてみる。
聴覚障害者がチャットで送信したが、聴者に気付かれない
→聴覚障害者の送ったチャットに聴者が気づけない
聴覚障害者がチャット入力中であることを聴者に気付かれない
→聴覚障害者はチャット入力中であることを聴者が気づけない
聴覚障害者がチャットを入力する間、聴者を待たせてしまう
→聴者は聴覚障害者のチャット入力を待つ時間を長く感じてしまう
確かに、聴覚障害者が困っていることは聴者が困っていることでもある。
こう考えてみると、聴者も潜在的に聴覚障害者とのコミュニケーションに課題を感じている。
今回のプロダクトはそれを解決しうるものだと感じてくれたからこそ、取れた優秀賞だったのではないかと思っている。
今後はどこに行くのか。
今後は、一般向けにリリースするためにさらなる改良を目指して開発を継続する予定がある。また、技育展2024に出展する予定。いずれにしても、より聴覚障害者の発信がスムーズにできることを目標に頑張りたい。
ということで、「開発したプロダクトをenPiTで評価されるまでチームは成長したよ」という報告でした。
これからも、よりユーザの課題を解決できるプロダクトにしたいという気持ちを添えて、この記事を締めくくります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
余談
Q. 優秀賞を貰った時、チームはどんな様子だった?
A. サークル長は狂喜乱舞でした。
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