勤務医の健康保険

こちらのノートは主に勤務医向けで、仕事としての保険請求ではなく、被保険者として本人が加入する健康保険制度の内容です。

就職後の大学院進学、結婚や出産による退職あるいは非常勤化など、健康保険を自分で選択する場合に、必要な手続きや、選択可能な保険者、自分にとってお得な保険者を判断するための材料はなかなか得られません。学校教育で習うわけでもなく、学生の時は被扶養者で就職すれば被保険者ですが会社が手続きをするので、特に意識することもないと思います。
それぞれの保険者に聞いてみても、それぞれの場合の保険料しか分からない上に、保険料を計算する基準も異なるため、比較した場合にどうなるのか教えてもらうことは基本的にできません。
特に3月には大学院進学や任意継続の満期などの時期でそういった情報の需
要が特に多くなるためノートを作ってみました。

健康保険という用語が、(健康保険制度という意味で使われる場合もありますが)広い意味では全ての保険者を指したり、国保(一般国保・国保組合)以外の保険者-いわゆる社保(健康保険協会・健康保険組合・共済保険組合など)-を指す場合もあります。

保険者は加入条件や保険料の算定方法、年金との関係で大きく分けて国保とそれ以外(広い意味の社保)に別れます。
国保には一般国保と国保組合があり、共通するのは年金が国民年金になること、保険料は全額被保険者の負担であること、扶養という概念がなく、その保険に所属する家族の人数によって保険料が変わること、任意継続がないこと等です。

一般国保は自治体が保険者で、基本的に前年の世帯主の所得によって保険料が決まり、所属する自治体によって計算方法が若干異なり、所有する不動産による加算分等もあります。しかしどこの自治体であっても総額の保険料の上限は年間100万程度で、比較的簡単に上限に達します。皆保険制度で、他の保険に該当しない人は基本的に全員一般国保になります。「保険に入っていない」という人がいますが、それは実際には社保に該当せず国保の手続きをしていないため保険料を支払っていなくて保険証も手元にないだけで、遡って保険料を支払う義務があり、保険の給付を受けられる状態です。

国保組合(医師国保等)は、社保の対象外の在住者が特定の業界団体(医師会など)に所属している場合に、その業界団体が保険者となって加入する国保で、年金は別途国民年金になります。保険料は保険団体により異なりますが、医師国保の場合は定額+家族一人当たり幾ら(上限なし)という計算になります。医師会の会員であることが加入条件であり、勤務医の場合は開業医ほど高額な会費は必要ありません。
医局に入っている医師の場合はその医局の属する大学の医師会に加入することで医師国保に加入でき、大学医師会の会費は大学によって異なります。医師会費は保険料そのものではないため、開業医の場合は事業所得の経費になりますが、所得税の社会保険料控除の対象外なので勤務医の場合は保険料を含めた総額が同じ場合は一般国保よりも損ということになります。
保険料自体も、医師国保に加入する家族の人数によっては一般国保よりも高くなります。ただし本人の所得額に関係ないので、家族が独立している(それぞれ別の健康保険に入っている)年輩の開業医にとっては(社保と違って従業員の保険料や年金を半額負担しなくて済むという点も含めて)非常にメリットのある制度です。

国保以外の健康保険(広義の社保=社保・共済)については、その対象となる事業所(法人もしくは常勤職員5人以上の個人事業)の常勤職員やそれに準ずる従業員、および経営者が加入します。
社保の対象になる場合は国保よりも優先され、かつ強制加入のため、社保の対象なのに国保に入ることは基本的にできません。手続きは事業主が行いますので、常勤職員が自分で健康保険の手続きをすることは基本的になく、家族の扶養を会社に届け出るくらいです。
社保のうち、事業所や業界団体で作った保険の団体が健保組合(健康保険組合または共済保険組合)で、こちらに所属しない事業所の場合は全国健康保険協会(協会けんぽ)の都道府県支部に所属することになります。健保組合は協会けんぽと比較して年金の給付・積み立て額が多いなどの特徴があります。社保全般に共通するのは扶養制度があり、一定の所得以下の家族を扶養に入れても保険料が変わらないこと、一定の所得以下の配偶者の国民年金が免除になること(国民年金第三号被保険者)、健康保険・年金とも半額は事業主が負担すること、去年の年収総額ではなくそのときの(毎月の)その勤務先からの所得のみで保険料が決まること、保険料の上限は国保よりも高いこと、一定の条件(勤務期間)を満たせば任意継続ができることなどです。

任意継続というのは社保・共済にしかない制度で、退職したり非常勤になったりして社保の被保険者でなくなった際に「任意で」社保に加入し続ける制度です。その場合、年金は別(国民年金)であり、保険料の半額事業主負担もないので、一定の所得以下の場合は保険料が2倍になります。しかし任意継続の保険料は上限額がかなり低いため、常勤医師を辞めた直後などの場合は基本的に最も保険料が安くなります。
任意継続は退職後2週間以内に手続きをして保険料を支払う必要があり、それをしない場合は加入する権利がなくなります。その場合は一般国保になります。任意継続はまた、「任意に辞める」ことはできず、保険料を前払いしている期間が残っている状態で国保に入りたいとか結婚して扶養に入るからといって保険料を帰してもらうことはできません。ただし、再度社保に加入する条件を満たした場合は(強制的に)社保に加入となり資格喪失するため、強制的に辞めることになります。また、保険料を支払わなければ資格喪失するため、任意継続を途中でやめたほうが得になるかもしれない場合は長期の前払いはせず、月払いなどにしたほうがいいと思います。

それで実際のところ、例えば大学院進学や結婚などによって常勤でなくなり社保を抜ける場合にどれが一番いいのかという話ですが、まず大前提として産休、育休、失業手当などを一定期間受けられる場合は保険者の選択(保険料の節約)よりも給付を受けられることを優先したほうがいいと思います。それ以外の場合で、家族の扶養に入れる場合はそれが一番安くなります。
個別のケースについてのシミュレーションは次回以降の記事にします。

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