見出し画像

自分に合った翻訳の仕事を見つける方法

こんにちは!仏日翻訳家のことです。
2021年9月下旬に約4年ぶりに翻訳本が出版されました。
ライターと整理収納アドバイザーの仕事ばかりしているので、ご存知ない方のほうが多いかもしれませんが、私はそもそもフランス語翻訳家としての活動歴が一番長いんです。ブランクはありますが、足かけ25年以上、翻訳の仕事をしています。

実は以前、こんなnoteを書きました。

ところが今回、翻訳の仕事をやってみて、再び「翻訳への情熱」が蘇ってきたと感じています。かなりタイトなスケジュールの仕事だったにもかかわらず、とても楽しかったのが理由の1つ。翻訳家といっても、なんでも翻訳できるわけではないんですよね。

翻訳にも相性がある。

しみじみそう思いました。

そこで、私の翻訳歴をさかのぼりながら、自分に合った翻訳の仕事の見つけ方について考えてみました。

夢は映画の字幕翻訳家、現実はビジネス翻訳者

私がフランス留学していた2年のうち、1年間は大学の映画学科の聴講生として映画の勉強をしていました。大好きな映画とフランス語の両方を生かせる仕事は何か?と考えたときに思い立ったのが「字幕翻訳家」だったからです。いま思えば、実に安直な考え。とはいえ、夢を見るのは自由だし、当時の私、行動力だけは人一倍あったと自負しています。

20代の頃の映画オタクぶりはこちらのnoteをお読みください。

帰国後は翻訳学校に通い、仕事をしながら映画の字幕翻訳の基礎講座も受けていました。けれども、当時の字幕翻訳の世界というのは「狭き門」。誰かのところに弟子入りするか、コネがなければ仕事につながらないのが現実でした。

それならば、せめて翻訳の仕事を…と思い、副業として始めたのがビジネス翻訳だったのです。と言いつつも、ビジネス翻訳も留学時代の友人に紹介された翻訳会社から依頼されたもの。やはりコネが強い業界でした。クラウドソーシングやSNSのない時代に仕事を取るためには自分の足で営業するしかなかったのです。

新聞・雑誌やサイトの翻訳、ビジネス文書の仏文翻訳など、専門分野のない私はいわゆる何でも屋。翻訳だけでなく、スポーツイベントのアテンダント通訳もやりました。

ビジネス翻訳は急ぎの案件が多く、副業として続けるのはしんどい。

と思うように…

ちょうど結婚もして家事もやらなければならず、本業・副業・主婦業の「三足のわらじ」を履いている状態には無理があったのです。自分の中で優先順位をつけた結果、私は本業を辞めました。まだまだ「結婚したら家庭に入る」ことが当たり前の時代でしたから。

出版翻訳のスタートはフィクション

実は、ビジネス翻訳を請け負いながらも、フランス語の翻訳学校には通い続けていました。文学部卒業ということもあり、私は読書が大好き。ビジネス翻訳よりも出版翻訳のほうが向いていると思ったからです。

ビジネス翻訳をやるなら専門分野を持ったほうが仕事が入りやすい。でも需要のある医療系やIT系などの専門知識は皆無。それに何よりもビジネス翻訳を楽しいと思えませんでした。

見切りをつけるのだけは早いのが私の特技。少しずつ方向性を出版翻訳に転換していったのです。

その後、とある出版翻訳コンテストに合格し、チームとして1冊の本を共訳することになりました。2000年頃の出来事です。出版翻訳家を目指す仲間と話し合いながら本を訳していくうちに、

私の課題は、日本語の表現力。まだまだ足りない。

そう気づきました。

チームの仲間から自分の至らない点を指摘してもらったり、よい点は褒めてもらったり。あの時間が私の原点。あの濃密な時間があったからこそ、今の私があると思っています。

『漆黒の王子 グリオ36の物語』がそのときに出版された本。子どもの読み聞かせにも使える良書だと思っています。

この頃から出版翻訳ならやっていけるのでは?という手応えを感じました。

翻訳力についてはこちらのnoteを読んでみてください。

ノンフィクションの下訳

共訳本のプロジェクトが終わると、少しずつ下訳の仕事が入るようになりました。おもにノンフィクション。話題の人の著書や有名女優の伝記などジャンルはさまざま。

下訳とは、本格的な翻訳の前の翻訳のこと。翻訳者が「時間短縮」のために下訳を頼み、それをもとに表現を変えて一冊の本となります。

これらの仕事も、翻訳教室の先生からだったり、前職で知り合った人の紹介だったりと、やっぱりコネであることに変わりはありません。まだ本格的な「営業」をしていなかった私にはありがたい話でした。

女優の伝記の下訳は、映画が好きだったこと、フランスで映画を勉強していたことを伝えていたからもらえた仕事です。実績はなくても「好き」やちょっとした「経験」を話しておくのは、やはり大切ですね。

下訳の仕事は、納期までにどれくらいのペースで訳していけばよいのかを知る、とても良い機会でした。翻訳家の卵にとっては、やってみて損はない仕事だと思います。

フィクションのリーディング

出産・育児で専業主婦となり、翻訳の仕事は10年近くキッパリとやめていました。翻訳を再開しようと思ったのは子どもが小学3年生になった頃。

もう一度、フランス語翻訳教室に通って出版翻訳のノウハウを学び直しました。しばらくして教室の先生からもらった仕事がフィクションの「リーディング」でした。

翻訳におけるリーディングとは、原書を読みレジュメをつくる作業のこと。このレジュメをもとに日本で出版するかどうかを決めるので、とても重要な役割を担っています。

原書のあらすじやキャラクターの特徴、感想、著者の経歴などを短期間(3週間〜1カ月が多い)でまとめなければならないため、スケジュール的にはかなりハード。ですが、リーディングの仕事がそのまま翻訳につながることもある、うま味のある仕事ともいえます。

翻訳したいからといって、原書を持ち上げるのはNGです。あくまでもフラットな立場で感想を述べなければなりません。出版社(クライアント)にとって重要なのは、本が「売れる」か「売れない」かですから。

ただしリーディングの仕事は、作業量の割に謝礼は少なめ。翻訳できるチャンスだと思って割り切ったほうがいいと思います。

マンガの翻訳

2016年に出版されたマンガ「シュガー ぼくはネコである」(飛鳥新社)は、私が初めて一人で翻訳を担当した本です。ネコ好きで知られる坂本美雨さんが監修しました。

この本の翻訳は、今までにないほど「翻訳って楽しい!」と感じられました。翻訳量が少なめで、内容も(メンタル的に)きつくない。ひたすらネコ目線で、難しい言葉は皆無。そういった理由が大きいと思います。

マンガや絵本みたいに楽しい本が翻訳したかったのかも。

出版翻訳は、なにも小説やノンフィクションばかりではありません。小難しい内容の本ばかりを訳せればいいわけではないんですよね。

このマンガの翻訳がきっかけで、「自分がどんな翻訳をしたいのか」という方向性が見えてきた気がします。

「ことば」を翻訳する

『シュガー』が出版された直後に、塗り絵に書かれた「センテンス(文)」を翻訳する仕事を引き受けました。塗り絵の一部となった文を訳すのが私の担当。読み手に刺さる「ことば」に訳さなければなりません。意訳しすぎるとフランス語を理解できる人には突っ込まれ、直訳すぎるとつまらない。

翻訳自体は簡単だけど、言葉選びが難しい…

表現力を問われる仕事でした。でも、表現が難しかったとはいえワクワクしながら翻訳できたんです。

長文になると、私の場合はどうしても「正しく伝わる日本語」に捉われてしまいがち。私は、読者に余白を残すような短文を訳すのが得意なのかもしれない… そう思えた仕事でした。

その後、ライターの仕事をメインにしていたため、翻訳は開店休業状態。そんな私に舞い込んできたのが『feel FRANCE 100〜言葉と写真で感じるフランスの暮らしとスタイル』の翻訳でした。

私は、その中のフランスの偉人の名言やことわざの翻訳を担当。「ことば」の翻訳は短納期にもかかわらず、とても楽しみながらできました。

相性のいい翻訳の仕事なら全然しんどくない!!!

翻訳は翻訳でも、こういう仕事をしていけばいいんだと確信できたのです。

とにかくいろいろなジャンルの翻訳にチャレンジしてみること

どんな仕事が自分に向いているかなんて、結局のところやってみなければわかりません。私も翻訳を始めてから20年以上かかりました。

どんなジャンルの翻訳もやろうと思えばできます。だから、最初は自分ができる翻訳の仕事はなんでも引き受けてきました。だからこそ、自分と相性のいい翻訳がどんなものなのかを見つけられたと思っています。

翻訳といっても、ビジネス翻訳もあれば映像翻訳や出版翻訳もあります。映像翻訳には字幕と吹き替えがあり、出版翻訳には小説もあればビジネス書やマンガもあるのです。そして一冊の本が出版されるまでには、下訳・リーディングといった翻訳の仕事も。

これだけ多くのジャンルがあるのですから、とにかくいろいろ試してみること。その中から自分に一番合った仕事を見つけることが大切なのではないでしょうか。

私のやってきたことが、これから翻訳家を目指す人のお役に立てれば幸いです。

それでは!A bientôt!

※このnoteは2022年1月にブログに書いた内容をnoteに移行してリライトしたものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?