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栴檀は双葉より芳し

本を焼く国ではいずれ人を焼く』で有川 ひろ さんの作品『図書館戦争』シリーズを紹介しました。下書きでは初期作品の『自衛隊3部作』についても少し触れていたのですが、作品を読んでなかったので公開時に削除しました。公開後、宣伝通りの作品なのか気になり、デビュー作の『塩の街』を読んでみました。


連作短編のように並べられていました。全体的にみると、本編の『塩の街』と『塩の街、その後』に分かれています。文庫本で読んだのでこのようになっていたのかもしれません。

本編の1章は物語の始まりに当たるのですが、鎌倉の海岸で終わる描写に美しさと儚さを感じ、どこが自衛隊3部作なのか分かりませんでした。映画化されてもおかしくないと思えるものでした。続いて2章3章と読み進め、塩の街に嵌っていくのを感じました。この作品の延長線上に『図書館戦争』があるのがよく分かります。確かに自衛隊は登場しますが、『自衛隊3部作』は便宜的な呼び方に思えました。


デビュー作がおもしろかったので、2作目の『空の中』も翌日に読みはじめました。各務原自衛隊基地から飛び立った戦闘機が高知県の上空で事故を起こすところからはじまり、その事故原因を調査していく展開です。謎解きのように話が展開するのですが、筒井康隆氏の『時をかける少女』に星新一が加味されたようでした。これはこれでおもしろい作品でした。


そして3作目の『海の底』。この作品には驚かされました。読み進めている途中で作品の舞台となっている横須賀周辺をグーグルマップで確認したくらいです。これでわかると思いますがとてもおもしろい作品です。話のつくりもよく考えられていて、如何にもありそうな話になっています。特に、登場人物の森生 望に惹かれました。川原 泉 作品に出てくるような人物像で、思い浮かべるときの森生 望は川原泉さんの絵でした。
もしもこの作品を映画化してしまったら陳腐なものにしかならないように思います。読み手それぞれにおもしろいと感じるところが異なると思うので、この作品の魅力を伝えきれなくなります。活字ならではの自分のペースで読めるところが最高にいいと思います。つくりが工夫されているので、そこに視点を置いてしまったら、森生尾の魅力が削られるように思います。アニメならいい作品に仕上がるかもしれませんが、それは図書館戦争で完成されています。


『塩の街』,『空の中』,『海の底』に陸・空・海の自衛隊が登場しましたが、ただそれだけであるような気がします。この頃、有川ひろさんには皆に伝えたい一つのテーマがあったように思います。その完成形が『図書館戦争』シリーズのように思います。

有川ひろさんは自分の作品を「大人の向けのライトノベル」と語っていますが、読みやすいという意味での発言だと受け止めています。そもそもライトノベル自体がよく分かりません。軽く読めることを表現しているのかもしれませんが、けっこうな厚さがあります。
3作品ともSF的要素が入っていますが、これは読みやすくするための工夫と伝えたいことをズバリ言ってしまうのを避けるための工夫だと思います。
めっきり寒くなり、もう冬も目前ですが、小春日和のときにでもたのしんでみてください。▢
※ 有川浩 は 有川ひろ と改められました(2019年)。

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