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彼でも彼女でもない、ゆきむら。という衝動

『 お前ら待たせたな。
  これが俺のマニフェスト2024︎︎︎ 』

  ✝︎  2024年04月30日 LINE CUBE SHIBUYA  ✝︎

♱ セットリスト ♱

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彼でも彼女でもない、ゆきむら。という衝動

壁に向かって生卵を投げつけ、地震が起きれば『自然災害大好き』とツイートする。
とにかく尖っていることが、ゆきむら。というアーティストのブランディングだった。

「俺、最近おかしいよな」

ライブ終盤、ゆきむら。は泣きじゃくりながらステージ上にうずくまった。
まるで土下座でもしているような恰好で、嗚咽しながら必死にことばを絞りだす。

「自分がわからない。もう誰もついてきてくれないかもしれない。
 こんな俺がステージでスポットライトを浴びていていいのかな」

つられて、すすり泣きはじめる殿厨(とのちゅう)たち。
「殿」と声をかけたい気持ちと、ゆきむら。の次のことばを静かに待ちたい気持ちが入り混じる。

「もうダメだと思ったのに……お前ら……お前らのせいだからな!!!
 俺、ライブでこんなに泣いたのはじめてだよ!!!!」

手の甲で何度も目元をぬぐっていたゆきむら。が、泣き笑い顔をあげたとき、このひとはなんて愛おしい存在なんだろうと思った。
自分がファンだからというフィルターは少なからずある、否定できない。
それでも、ゆきむら。という存在がなぜ、ここまで熱狂的にファンの心を掴みつづけるのか、その一端をありありとみせつけられた気がした。

ゆきむら。はいつだって生身で等身大で、全身全霊でぶつかってくるのだ。
いつだって必死で、がむしゃらに生きていて、わたしたちが心の奥底にしまいこんでしまう窮屈さを、驚くほど素直に目の前に晒けだす。

アイドルは偶像だ。
ゆきむら。というアーティスト像もまた、ひとつの偶像として熱狂的に崇拝されている。
はたして、自らを「ネ申」とのたまうアイドルがどこにいるだろうか。
しかし殿厨たちは、それをあたりまえのように受け入れてしまう。

どこまでも人間くさく、あるがまま感情を表出する。
わたしたちがなくしてしまった「幼さ」がそこにはあった。

胸のうちに抱きしめて、吐露できないたくさんの感情を、ゆきむら。は代弁してくれる。
意図的にではない、そこに計算なんてものはひとつも存在しない。

隠しとおしたかった、澱んだ感情があった。
傷ついたら泣きたかった、なぐさめられたかった。
憤りのふちで、他人を傷つける想像をした。

死にたいより殺したい精神で行こうぜ

まるで深海を泳ぐ熱帯魚のように、ゆきむら。がステージ上で舞う。
くるりひらり、ふわりひらりとステージ衣装がひるがえるす。
なんて美しいのだろうと思った。

そうかと思えば、小指の先に、眼光に、ゆきむら。たる狂気が宿る。
歌声は「がなり」となって会場に轟く。

すると今度は、人懐こい満面の笑みで歌いだす。
手をふり、一緒にペンライトをふる合図を送る。

こんなの、愛する以外に、いったいどんな感情を抱けばいい?
彼でも彼女でもないそのひとは、最後に言った。

「大人たちに嫌われてもいっか」

中指つきたてて、わたしたちはこのひとについていく。

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 ゆきむら。:https://twitter.com/Xykmr

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