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闇営業問題みんな何に怒ってんの?【法律】

続々と報道されるお笑い芸人の闇営業

毎日のように芸人が闇営業を行い、事務所から処分を受けたというニュースが舞い込んできます。

この問題について色々な議論がされていますが、複数の問題が整理されないまま議論されていて、何が問題だったのか、みんな何に怒っているのか、いまいちよく分からない状態になっています。
「闇営業」という言葉だけが一人歩きしてしまっていて問題の本質がよく分からない。

大きく分けると以下の2つの問題があります。
1 事務所を通さずに営業を行なっていた点
2 営業先に反社会的勢力の人間がいた点

これらについてさらに整理しながら、法的な視点も含めて検討してみようと思います。


1 事務所を通さずに営業を行なっていたこと

「闇営業」という言葉は元々この意味で使われていた言葉です。
営業先が暴力団か否かを問わず事務所を通していない営業で、「直営業」とも言われます。

芸能事務所と芸人は通常マネジメント契約を結んでいて、基本的に事務所所属のタレントとして活動する場合は事務所を窓口として仕事を受け、その仕事の報酬をあらかじめ決めた割合で分け合うという内容になっています。

「闇営業」「直営業」はこの契約に違反する行為で、芸人がこれを行うと事務所との関係で契約違反だということになります。
その場合の処分についても本来は契約で定められていて、それに従って処分が行われます。

ただこの「契約違反」というのは何かの法律に違反するとか、国から罰則を受けるというものではなく、当事者間のルールに違反したね、というものです。

これまでもテレビ等で芸人が「闇営業に行った」という話はネタ的に話されていましたし、事務所がどういった対応をしていたかは分かりませんが今回のように世間を騒がせるものでなかったことは間違いありません。


2 その営業先に反社会的勢力の人間がいた点

おそらく問題はここからで、営業先に反社会的勢力の人間がいたことはどう考えるべきでしょうか。
これは、反社会的勢力と契約を締結することの是非と言い換えていいと思います。

これについては以下の2つに分けて考える必要があります。
①法律に違反するかどうか
②事務所の社会的イメージの問題

①法律に違反するかどうか

ここでは暴力団排除条例との関係が問題となります。「暴排条例(ぼうはいじょうれい)」と呼んだりもします。
各都道府県に定められており、暴力団を社会から排除するために定められた条例です。

東京都の暴排条例に従って今回の例を見ると、芸人には以下の義務があったと考えられます。
・相手が暴力団かどうか確認する義務
・契約書を作っていたのであれば、暴排条項を定める義務

今回は契約書まで作っていたとは考えられないので、主にひとつ目の「確認義務」を果たしていたかが問題となります。
(細かい点でいうと、暴力団の活動を助長したり、暴力団の運営にプラスになる場合にこの義務が課されるのですが、芸人の営業が果たしてこの要件を満たすのか、という問題はあります。)

ただ、条例には確認の方法や、ここまで確認すればセーフといったことは一切書かれていません。
どこまで調査するかは各事業者の判断に委ねられています。

そしてこの点は完全に私見ですが、「今日は暴力団の方を対象とした営業です!」って説明でも受けない限り、自分で調べて相手が暴力団かを確認することはまあ無理だろうなと思います。

そういう人たちは自身が暴力団関係者であることを隠して近寄ってくることが通常ですし、偽名や、新興のフロント企業なんかを介されると調べようがありません。
私自身、企業内で反社チェック(契約相手が反社会的勢力かどうかをチェックする仕事)をしたことがありますが、過去の新聞記事やネット記事を調べたり、場合によっては調査会社に依頼したりしますが、「絶対大丈夫だ」となることはなく「まあこれだけ調べたからいいでしょう」というところで諦めます。

なので何の調査能力のない芸人に対して「なぜ暴力団関係者だと気づかなかったんだ」と責め立てることは結構ナンセンスなのかなぁと思っています。

さらに、と言うかそもそもこの確認義務自体「努力義務」といってそれを行わなかったからといって罰則を受けるものではありません。

②事務所の社会的イメージの問題

やはり問題のメインはここなのかなと思います。
法律に違反するかどうかではなく、「反社会的勢力との関係は一切持ちません」ということを世間にアピールする必要があるため、どんな小さな問題であっても事務所として厳しい対応を取る。
このこと自体は理解できますし合理的な対応だと思います。


法律家として気になる点

ただ法律家としては気になる点もあります。

各々の契約がどのようになっているかは分かりませんが、今回、「契約解除」や「無期限活動停止」といった重い処分にした根拠はきちんと定められていたのでしょうか。
闇営業を行なったこと、反社会的勢力と関わりを持ったことがどのような処分になるのかが予め合意されていなければ処分を行うことはできません。

また、闇営業はともかく、反社会的勢力との関わりについて芸人側の認識が全く考慮されていない(であろう)点も気になります。
処罰対象になると定められていたとしても、知らずに行なった場合にそこまで重い処分とすることが認められるのか。争う余地は十分にあるんじゃないかと思います。

もちろんそこで争ってもプラスになるとは限らず、またそういった打算ではなく、事態を重く受け止めて処分を受け入れている方もおられるのだろうと思います。


結局何に怒ってるの?

ここまで検討してみて、芸能事務所側が厳しい処分を取ったことは理解できました。
ただ世間の人々が芸人を叩いている理由は分かりません。

闇営業については事務所との契約関係の問題に過ぎないし、今まで騒がれてなかったし、法律との関係では努力義務(その義務も果たしてたかもしれないし)の問題です。

では、周囲の人は何に怒ってるんでしょうか。

「暴力団と付き合っている芸人なんてみたくない」というのであれば、芸人の認識をもう少し見てみる必要があるんじゃないでしょうか。
仮に芸人に暴力団だという認識がなかった場合でも、同じように責め立てる理由はあるのでしょうか。

「詐欺で稼いだお金を受け取るなんてけしからん」というのであれば、彼らが利用するサービス全てが対象になります。
これは僕の知り合いの作家さんが先に書いているので読んでください。
「原資が何か」は問題の本質ではありません。

今回の問題は、暴力団排除の点から非常に重要な問題ですし、事務所や芸人が真剣に取り組むべき問題だと思います。

けれど、周囲が本質を捉えることなく、ただお祭り的に盛り上がっていく風潮は何とかならないかなと思います。
それで不必要に重い処分になっているのであれば納得いかないし、一時のお祭りのために誰かが犠牲になるのも好きではありません。

僕の好きな芸人さんたちが対象になった今回の件だからこそ、もっと冷静に問題の本質を考え直したいと思っています。

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