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こんにちは。言語聴覚士の木山です。

私のところによく来る問い合わせのひとつに「療育に通っているけれど集団で過ごすだけでことばの指導がない」というものがあります。お母さんたちはそのことに不満を持ちつつも、療育の施設の担当者には言えず、私のところに直接助けを求めてくるようです。

お母さんたちが一縷の望みを託して私のところに来てくださるのですが、私が指導したからといって魔法のようにことばを話せるようになるわけではありません。ことばを話すためには下準備が必要です。今日はそんなお話をしようと思います。

ことばを話すために必要なこと

①耳が聞こえているか

お子さんの評価をするとき、まずチェックするのが「音に反応するか」ということ。私は小さなブロックなどを詰めた袋を、机の下でがちゃがちゃ鳴らしたり、少し離れたところから囁き声でその子の名前を呼んだりして簡易チェックをしています。

②やりとりが成立しているか

風船やボールを持っていって、その子に投げてみます。子どもがちゃんと投げ返してくれるかどうか確認します。

なぜやりとりのチェックが大事なのか。それは、ことばは人とのやりとりの道具だからです。ですからまず、ことばを使わないやりとりが成立しているかをチェックします。人とのやりとりが成立していないと、ことばの発達はどうしても遅れがちになります。

③運動や認知はどの程度育っているか

幼児の発達検査に「新版K式発達検査」というものがあります。主に運動面の発達をみる領域、認知面の発達をみる領域、言語面の発達をみる領域の3側面を確認するものです。

ことばが遅れているお子さんは3つ目の言語面の領域が低く判定されるわけですが、運動領域や認知領域も低めの結果が出ることがあります。

ことばは、上の3つのうち運動面と認知面がともに発達した状態でないと育ちにくいものです。小児分野で著名な言語聴覚士の中川信子先生は、この3つを鏡餅にたとえて説明されています。運動面が一番下の大きなお餅、認知面がその上に乗る小さめのお餅、ことばはその一番上にのるミカン、というわけです。安定した土台のお餅(体幹・運動)がないと、上のお餅(認知)は乗らず、さらに上の丸くて不安定なミカン(ことば)が乗ることはありません。

つまり、ことばを話すためには、運動面と認知面も十分に育っている必要があります。

療育施設が集団訓練に力を入れている理由

療育施設で、ことばの訓練を直接的には取り入れていない場合の理由は、そこに言語聴覚士がいないというハード面もあるかもしれませんが、おそらく土台となる「運動」「認知」を育てることに、まずは力を入れているからだと思います。ボールのやりとりをするにはボールを投げる力(運動)が必要ですし、ボールは投げて遊ぶものだという知識(認知)が必要です。ボールの投げ合いっこが楽しいと学べば、次の遊びへと広がってもいきます。やりとりする楽しさを覚えることで土台が育ち、そこに「ぽーん」「ころころ」といったことばを提示していくことで、上のミカンが乗ることになります。

療育施設に相談してみましょう

不満を口にすると子どもが不利に扱われるのではないかと、何も言えずにいるお母さんも多いです。また相談しても「今はまだ個別療育は早いですよ」と断られる方もいらっしゃいます。「早い」と判断されるのは上記のように運動面と認知面の発達を待っているから。だからこそどれくらいになったらことばの個別訓練が始まるのか、聞いてみるとよいと思います。そこで丁寧に発達について説明してくれる施設なら、安心して任せてよいと思います。

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