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ブックオフ大学ぶらぶら学部余談サークル

岬書店の本『本屋さんしか行きたいとこがない』と『ブックオフ大学ぶらぶら学部』は、読んでいると自分が通ってきた本屋さんのこと、自分とブックオフとのかかわりに思いを巡らせ、そして語りたくなる。

子ども連れで動くようになって最近はブックオフに行かなくなったけれど、乗り換え駅にあった頃は必ず立ち寄っていた。そして昨年ある取材で資料本として取り出した本にブックオフのシールが200円シールが貼ってあった時の気まずさとか(そのジャンルの取材をするなら一応持っておいた方がよい部類の古典を以前仕入れてあって、取材先に見せたのも「読んでますよアピール」だった、、、)話し出せばきりがない。

『ブックオフ大学ぶらぶら学部』はどの稿も素晴らしいけれど、先に飛ばして読むほど面白かったのが大石トロンボさんの漫画、そしてZ氏のブックオフ・クロニクルは、出版界のみならず小売業界のこの間の変遷が映し出されるように思って、一級の記録だと思った。

ブックオフの店舗も、ブックオフという単語もその後、自然と目に止まるようになった。本の冒頭、「私の体はブックオフでできている」という一文から始まる稿を寄せている武田砂鉄さんがラジオで、ゲストの清田隆之さんと高田馬場でバッタリ遭遇した理由が「ブックオフに行っていて」なんて話すのを聞くと吹き出してしまう。クリアファイルを探して雑然と積まれた書類の束から適当に引き抜いたスクラップにこんな一文を見つけて興奮したり。

ーー(走る時に)最近はどんなものを聴いているんですか。

「それはもう話し出すときりがないんだけど、僕が今いちばんよく聴いているのは、トリビュートアルバムかな。(中略)もちろんアナログレコードの収集は続けているんだけど、最近はランニング用にCDをよく買うようになりました。ブックオフの250円均一のコーナーとかに行くと、けっこうおもしろいものがあって、そういう捨て値コーナーとかでiPod用のマテリアルを見つけるのが楽しいんです。半日かけて選んだりしていると、『本を売るならブックオフ』というメロディが耳について離れなくなっちゃうんだ。情けないことに(苦笑)」

『Number Do 2011 Spring』23〜24ページ  
巻頭インタビュー 村上春樹「僕は走り続けてきた、ばかみたいに延々と」

ベストセラーが並ぶブックオフは、大量生産・消費社会の落とし子なのだという。大量消費が陰りを見せるなか、出版界は大量生産では立ちゆかないと言われる。出版社も、書店も、小さなものが輝いている。岬書店とその本を扱う書店のように。人の思いを薄めずに作った本を、人から人へと手渡すような。

そんななかだけど、覚悟を持った大量生産というのはアリなんじゃないかと思う。本はモノだからこそ、そこに置いてあるから手にとる人がいる。まわりまわって手にとる人がいる。

ブレイディみかこさんの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』は発売から1年を過ぎた今も書店のいちばん目立つところで表紙が何面も並べられている。刊行部数は30万部を突破したという。

読んだのは出てすぐのこと。しびれた。文章に、中身に。このようなことを見て、このように考えて、行動して、そしてこのように書くことに。

だんだん本の露出が増えるなか、ある媒体でブレイディさんにインタビューする機会に恵まれた。感じたのは、間口を広げることへのブレイディさんと新潮社の担当の方々の強い思いだった。

ブレイディさんの本は何冊も読んでいて、特に『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)や『ヨーロッパ・コーリング』(岩波書店)は素晴らしい本だった。でも、『ぼくイエ』はまた違う、伝わる・広がる力を持っていた。前の2冊は、本を読み慣れている人にはぜひ読んでと言えるけれど、万人に薦めるかというとためらう。でも『ぼくイエ』は誰かに本の話をする機会があったら、迷わず読んでと言える本だ。読むハードルは決して高くない。でも、読み進めるうちに、ものすごく持ち重りするものを抱えていることに気づく。でも持ったことを悔やむわけではなく、読まなかったとしても抱えながら歩くことに変わりはないと思う。読んだ方が心強いと思える。

本屋大賞2019に輝くと、どこの本屋に行っても店頭にずらりと並ぶことになった。正直、少し心配になった。いい本だから売れるとは限らない。SNSをはじめ関心のうつろうスピードが早まるばかりで、売れ行き好調だからと増刷したら返品の山というケースもあると聞く。

でも杞憂に終わった。ブレイディさんはあちこちでインタビューに応じて、その言葉にどんどん注目度が高まった。ランキングの上位で見るようにまでなった。そうすると、『売れているから』と手にとる人も増える。先日、それほど本をたくさん読むわけではない夫の書棚にも見つけたくらいだから。

ふだん本を読まない人が買う本がベストセラーなのだという。そして買った人が読まない本がベストセラーだとも言うけれど、もし買ったけれど読まなかった人がブックオフに売ったら、定価の1350円より安く手に入れられる人がいる。さすがに今は100円、200円の均一にはならないみたいだけど、新刊で買うことをためらった人、特にお金に余裕のない学生さんがブックオフに並ぶことで初めてこの本を読めるのだと思うと、たくさん刷ってベストセラーにしてくれてありがとう新潮社!となぜか特段かかわりのない一読者がじんわりとした気持ちになっている。

だから買った人はブックオフに売るのもいいけれど、この本はとりあえず家のなかに置いておくのもいいと思う。子どもが手にとってくれたらいいなと思う。親が薦めたら読まないかもしれないけれど、親が読んでいてその辺にある本はなんとなく読んでみようか思ってくれたらいいなと思う。

ブックオフから話が逸れた。今度錦糸町にひとりで行ったら、ブックオフをのぞいてみよう。

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