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ぼくは頼れる介護のおにいさん

いとこのおじさんはパーキンソン病だ。

ぼくの家から車で10分くらいの距離にあるマンションに奥さんと2人、老老夫婦で暮らしている。

「おじさんがねぇ。パソコンがわからないから見に来てほしいって」

ぼくがデイサービスで働いていることは伝えてあるので、何か不都合があるとLINEが飛んでくる。ただこれは「なんか困ったことがあったら気軽に電話してー」とふたりに言ってあるので「それなら頼むわー」という会話の取引が公正に行われているから大丈夫なのだ。

介護の仕事は休み。だけど介護に行ってきます。

少しのめんどくささを抱えながら、noteのネタができたというシメシメを握りしめ、ふたりが暮らすマンションへと向かう。

バリアフリー?
おじさんの愛車(シルバーカー)

おじさんはシルバーカーを押し、ひとりで散歩に出かける。結構なスピードで歩き、近所のスーパーまでお菓子を買いにいく。

心身になにも異常のない高齢者であれば、健康のために毎日散歩に出掛けてほしいしした方がいい。
しかし、おじさんはパーキンソン病だ。手足は震えるし認知機能も長谷川式でギリギリの点数だったと聞いている。
もちろん散歩の途中転倒し、通りすがりの方に助けてもらって血だらけで帰還したことは何度もある。転びすぎて足のスネは備長炭だ。
「ひとりで出掛けないで!」といった奥さんの制止を、奥さんのうたた寝の隙にかいくぐるという方法で出かけているらしい。
ぼくは一度、おじさんの歩行状態を確認するために近所の公園を一緒に散歩した。片手杖の歩行では50メートル歩くことがやっと。息切れしてその場でうづくまってしまう。しかしシルバーカーの歩行では2キロくらい平気で歩けてしまう。両手が安定すると歩けてしまう。

びっくりした。こないだ車で10分の距離にあるぼくの家まで、ひとりで来たのだ。
別の日におじさんとおばさんで来たとき、家庭菜園の花が気になってどうしても欲しくて、ひとりで歩いてきていたのだ。
「花壇に咲いてる花をくれ」と、ぼくのウチの玄関先で勝手に土いじりをしていて、なんか見たことある後ろ姿だなぁと近寄ってみたらおじさんだった。
おじさんの身体能力にも驚いたがその執着たるや。やはり認知機能の衰えがあり危険や状況判断ができなくなっていることが明らかだった。

そんなんだから、
来てもらうよりもぼくが行った方がずいぶんと楽なのだ。

実の息子もほど近くに住んでいる。だが息子にアレコレ怒られるから嫌なのだそうで。しょうがないよな。たださえ高齢者と接することには、それなりに忍耐と適性が必要だと思うし、ましてや認知症がある方の対応は実の親子の方が難しい。ぼくが適役なのだ。パソコンも得意だし。

はてさて、部屋に上がらせてもらいパソコンを開く。なんの不具合があるのかな?

「画面が暗くて見えん」
「ネットにつながっていない」
「プリンターが動かない」

はいはいはいはい。
ディスプレイの明るさを調節しWi-Fiオン。既定のプリンタを設定し直しテストプリント。ものの10分で解決。

ぼくが作業している間、おじさんは席を外しリビングでドラマの再放送を見ていた。

「直ったよー!」と声をかけると、パソコンの前をぼくから奪い取り麻雀ゲームを始める。成果を上げたぼくには見向きもしない。

そんなもんなのだ。目の前ものにしか意識が向かなくなるのだ。介護の仕事をしてなかったら、この行動が理解できないだろうなと身に沁みて思う瞬間だった。

そのあと1時間おばさんの話を聞き、タイミングを見計らっておいとました。おばさんと話している時間が一番長かった。これでもほんの少しのレスパイトになるならと。

はてさて疑問がひとつあって。パーキンソン病で認知症のあるおじさんが、インターネットで何を見るのだろうと、修理報告の前にパソコンのブラウザを立ち上げてみた。

ブックマークバーに「あだると」というブックマークがあった。

なるほどね。そりゃぁね。ぼくのニヤついた顔が、窓ガラスに映っていた。
ぼくはデキる介護職員なので、おばさんには内緒にしておいた。

介護は大変。介護職はキツイ。そんなネガティブなイメージを覆したいと思っています。介護職は人間的成長ができるクリエイティブで素晴らしい仕事です。家族介護者の方も支援していけるように、この活動を応援してください!よろしくお願いいたします。