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パンク少年とホワイトベアー

今日のデイサービスでのレクリエーション。

フロアの椅子を円に並べて利用者さんに向かい合って座ってもらう。総勢12人。足元に新聞紙を置いていき、足だけでビリビリに紙吹雪のように細かく破ってもらう。
介護施設で行われる定番のレクリエーション。足だけで新聞紙を操ることによって、足の筋力を維持する効果もある。利用者さんは思うように言うことを聞かない足にヤキモキしながら中には手を使う人も出てきて、ちょっと盛り上がる。
細かく破いた新聞紙を円の中心に集める。利用者さんに「うちわ」を一枚ずつ渡していく。円の中央にビニールテープで仕切りをつくり、ふたつのチームに分ける。
紙吹雪をうちわであおいで、相手陣地に多く入れたほうのチームが勝つ。時間は30秒。30秒は短いように思えるが、必死であおいでいると息切れするほど激しい運動になり、ちょっとした酸欠状態になるので注意しなくてはいけない。必死すぎて息継ぎを後回しにする高齢者もいなくはない。危険防止のため「座ってやること」「前のめりになって転ばないこと」「疲れたら手止めること」をお願いしている。
新聞紙を破るのと、うちわで仰ぐゲームで大体30分のレクリエーションという段取りだ。

もちろん認知症の方にもやってもらう。細かいゲームのルールは伝わらなくても、隣の席の方の真似をすればきちんとゲームに参加できる。

おっとりとした男性の利用者さん。
水頭症による認知機能の低下があり、全ての行動がとってもスローリー。大柄でハンマー投げの選手か?と思うくらいしっかりとした筋肉がある。入浴介助の時にいつも思うが、戦ったらぼくはきっとねじ伏せられるだろうと恐怖することがある。ぼくは「もやし」みたいな貧弱な体型だから。
「ええねぇ。ありがたいねぇ」が口癖で、下がり眉で目尻も下がっていて怖くはないのだけど、でもぼくは、ホワイトベアーを連想してしまう。「あれ?〇〇さんどこいきました?」とスタッフが探している時は大概、静養室のベットでベットから足を放り出したまま寝ている。前世はやはりホワイトベアーだと思う、もしくはホワイトベアーに育てられたのではないかと思う。スヌーピーがプリントされたグレーのトレーナーを着ている。

そのホワイトベアーの隣に座ったのは小柄なおばあちゃん。
小柄なのだか多少血の気の多いおばあちゃんで「水滴が残ったまま片付けたらダメ!」と、昼食後の食器拭きの際は、他人の仕事に目を光らせダメ出しをする。90歳を越えてもキチっとした身なりをしているし、入浴後にドライヤーをするとき「オールバックにして」と注文される。短髪だからパンク少年のような髪型になるけれど「あんがと」といってシルバーカーを乗り回して自分の席に戻っていく。

水と油。混ぜるな危険。寿司職人にグローブ。ハゲにサンバイザー。夏にダウンジャケット。真冬に怪談。

パンク少年とホワイトベアーの相性がとにかく悪かった。

紙吹雪をうちわで仰いでいる時。

パンク少年は1.5倍速の動画再生くらいうちわを仰ぐ。一方、ホワイトベアーは走馬灯ぐらいゆっくり、風邪をおくるどころかいっさいの波風が立たないくらい達人の極み、高速すぎてスロー、そんなうちわの仰ぎを魅せる。

職員としてはその人間コントラストが楽しいし醍醐味なのだが、いかんせんパンク少年にしたらじれったくて「もうちょっとしっかり仰いでよ!」と、シャウトしてしまったのだ。「あんた何やってんの?」「持ち方が悪い」など、数発シャウトしたのだろう。

「うるさい!ちゃんとやっているだろーが!」「何なんださっきから!」とうとうホワイトベアーが牙を剥いてしまった。温厚に見えて実は、奥底に秘めている狂気というか普段は見せない怒りの炎というか、ぼくは知っている。そうなる前に気づいて何らかの対応をすることが、ぼくの役目なのに。

すぐさまパンク少年とホワイトベアーの間に体ごと割って入りブレイキングダウン。ふたりの物理的な距離を離した。このままだとホワイトファングが発動してしまう。

パンク少年のトサカはちょっと萎れた。もともとは気の優しい方。明らかに怖がっていたので肩をさすり「ごめんなさい、怖かったですね」と声をかける。隣であんな怒鳴られ方をされたら、ぼくだったらちびってしまう。

「なんでなん!どうしてお互いを理解して優しい言葉をかけてあげられないのですか!」と、ぼくが声をあげて注意したらいいのでしょうか。ごめんなさい、ぼくにはそんな勇気はありません。とにかくこの場が収まればいい。そうすることだけで必死だった。

ホワイトベアーはここでゲームを終了。感情を落ち着かせてもらうために、帰り前だったのでトイレに行ってもらうことにした。時計は16時を回っていたので、まぁちょうどよかった。

トイレに行きトイレ介助をする。
ホワイトベアーのリハパンとパットは尿でズッシリだった。

このままの文章を報告書として提出するかどうかを、ぼくはいま検討している。


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