具体と抽象と介護職員と
「お風呂洗っといてくださいー!」
「え?どうやって洗うんですか?」
「ウチのデイサービス、個浴だから家のお風呂とさほど変わらないので、あのスポンジと洗剤を使ってキレイにしてもらえれば大丈夫ですよー」
「あのスポンジですね!どこから掃除していけばいいですかね!」
「浴室の上の方から洗った方が、汚れが下に流れていきますよねー」
「石鹸とかシャンプーはどけたほうがいいですか?」
(え?何言うてんの?)
「やりやすいやり方でいいですよー!」
「すみません、やってるところ一度見せてもらえませんか?」
(ええけど、ええけどもやね。)
「とりあえずやってみてください。やり終わったあとに確認しますね。」
「…」
(なにが?どこで? …なの?)
怒ってはいない。え?なんで?って思う。
こーゆーやりとりが、理解できないでいました。
そしてこの本を読んで謎が解けました。
うぃ。「お風呂洗っといて〜」は抽象なのか。
抽象化の思考に慣れていない人は、具体的な行動ひとつ一つを伝えないと理解してくれないのかと。なるほど。なるへそ。
この場合「何か気を付けることはありますか?」って質問が返ってくる人は、抽象化の概念を持っている人だと思う。実行する上での注意や禁止事項だけは聞いておかないと、トラブルになったり後でゴチャゴチャ言われたらムカつくから。これは本人のリスクマネジメントでもある。
賢いなぁ〜とかそんなんではない。抽象化の概念を持っている人だってこと。
具体思考が悪いわけではない。だって、細分化して具体的にしたほうが行動は限定されて動きやすいし物事は達成しやすいから。
「具体的な目標を立てましょう!」っていうじゃないですか。手段や方法、期限を明確にしないとダメだって、世間は口うるさく縛り付けてくるじゃないですか。
なのに抽象化思考と具体的思考を行き来することが重要だなんて。後出しジャンケンも甚だしいよ。この本。
まぁ、風呂掃除ならカワイイ。
でもこれを、身体介護に置き換えてみると事態は一変する。
「今日はじめて来る利用者さんなんだけど、右片麻痺だから気をつけて介助しましょう」
さぁ、この抽象概念にどのように立ち向かって行こうか。
え?どうやって?どうしたらいいの?
こうなって、誰かが先に行くのを見守る人がいる。経験や知識があるにも関わらずだ。つまり具体的な思考の人は「はじめの一歩」になろうとしない。
いや待ってくれ。どんな利用者さん、どんな身体状況・どんな精神状況の方の対応も、はじめて対応するスタッフがいるのであって。なんだろ、抽象的なものとぶつかってはじめて具体的なことがわかってくるのであって。
具体的な情報から抽象的なビジョンやサクセスを導き出すのであって。
「きちんと説明してくれないと!わたし!できません!」なんて、おまえさん、喧嘩腰で詰め寄られた日にゃぁ。ならばひとつ一つ丁寧に伝えてその場を丸めて「嗚呼、しばらくの間、関わるのやめとこ」となるでしょうよ。
それが、未経験・1年目・若手なら許せるが。
経験者・ええ感じの歳の人だった場合、辛いっす。
わかりますよ、感情をぶつけてくるのは。身体介護って最悪命に関わることですから誰でも慎重に行いたい。
でも、いつも「はじめの一歩」を踏み出している人には敬意を払いましょうよ。
はっはっはっ!
なにを言うまい!
その喧嘩腰で詰め寄るそいつが、当時のぼくでした。
先輩方、今更ですが感謝申し上げます。
あの頃のぼくと比べると、少しは成長しております。
介護は大変。介護職はキツイ。そんなネガティブなイメージを覆したいと思っています。介護職は人間的成長ができるクリエイティブで素晴らしい仕事です。家族介護者の方も支援していけるように、この活動を応援してください!よろしくお願いいたします。