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思い込みってヤツは、本当に厄介なヤツだ。

「あの人はこうゆう人だから」
「私はこういう人間だから」

人間の思い込みはかなり強力なフィルターになる。時に大きな間違いを生む。

ある利用者さんは、ぼくの働いている施設に来る前に別のデイサービスを利用していた。その方が言うには「前のデイサービスでは酷い目にあった。風呂に入ったら白癬をもらって足の指の爪が剥がれた。もうそれから湯船には入らん」顔を赤らめながらそう語る。
その方は脳梗塞で後遺症として麻痺があり片足が十分に動かない。健側側の足に白癬ができてしまったらしく、かろうじて動く片足が使えないとなると、ただでさえ日常生活が不自由で工夫しているのに死活問題になる。

デイサービスの風呂は毎回湯船のお湯を入れ替えているわけではない。だから感染を防ぐために湯船に入る前にはきちんと体を洗って入ったり、排尿や排便がありそうな場合は、シャワー浴・入浴の順番を最後にたりするなどして対応する。それでもリスクは決してゼロにはならない。気の毒な話だなぁと思っていた。

ぼくの働いているデイサービスでも、その方はシャワー浴を希望して湯船には入らなかった。「入浴の順番を最後にしてお湯を入れ替えます」と伝えても、相当なトラウマだったのだろう。首を縦には振らなかった。

本人が希望しているならそれでもいい。ただ、よくよく調べてみると、その方は独居でろくに洋服も着替えておらず、靴下、下着なんかは数週間同じものを着用しているとのこと。訪問ヘルパーさんがやっとの思いで着替えてもらっているとのことだった。そして軽度の認知症もある。

そうなると話は変わってくる。
白癬をもらったのではなく、持っていた可能性の方が高い。

だとすると、以前のデイサービスでは風呂以外のことで気に食わないことがあって、たまたま白癬のことがキッカケになった可能性もある。

そんなことがわかってきてからスタッフ皆、その方にはなるべく気分を害さないように対応した。しばらく利用を続けてもらって、ある日のこと。

「湯船どうですか?」

「入ってみようかな」

「え?入るんですか?」

「入ろうか」

完全にシャワー浴だと思い込んでいたので湯船のお湯を抜いて浴槽を洗ってしまっていたのだが、慌てて湯を貯める。ちょっとニヤニヤしながら。

これはお互いの思い込みが、音を立てて壊れた瞬間だった。

思い込みってヤツは、
本当に厄介なヤツだ。

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