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昇格手前の日。

先週のこと。仕事に追われる慌ただしい昼下がり。
いつの間に近づいてきたのか、はっと気づくと間隣に部長が立っている。存在を認識したとき、軽く冷や汗をかいたのが分かった。ひんやり、という言葉がしっくりきすぎる。
なんでしょうか、と問いかけた私に
「手が空いたら会議室まで」
それだけ告げて去る部長。
宣告された瞬間、私の本音は「今すぐどうにかして早退したい」だった、が、逃げ帰ることはもちろん許されない。

実は降格します、とかかもしれないし…他の人の異動の話とかかもしれないし…
自分に色々言い訳しながら向かった会議室で告げられたのは、降格でも他人の異動話でもなく、最も予想していた内容。
私自身が課長に昇格するという通知だった。

いつのまにこんなところまで来たんだろう。
私が最も熱意を持って「昇格したい!」と希望していたのは、子供たちがまだ保育園時代。一般社員から係長への昇格時だった。
周りの人達がどんどん係長クラスになる中、私は時短勤務ともありなかなか上に行けずに足踏みの時期が続いた。
「ママはもっとおしごと、がんばったほうがいいとおもうの」
幼い娘の後押しを受け、私は時短勤務を卒業した。フルタイムに戻った私の気迫が伝わったのか、その翌年に念願の昇格を果たしたのだ。

あの気迫から数年。
気づけばもう一段階上がって去年管理職になった。
それでも半分プレーヤーで、直接部下がいるわけじゃあない。係長よりは忙しいけれど、課長よりは忙しくない。
そもそも課長というのは選ばれし人がなるもので、私なんぞは最低でもあと1、2年は経験積んでからでしょうよ…まだまだでしょうし…などと勝手に思い込んでいた。それだってのに。
早すぎる。振り返っても自分の辿ってきた道がもう見えない。いつのまにこんなところまで来てしまったんだろう。

火のないところに煙は立たぬ、とはよく言ったもので。週明け12時の公表までは誰にも言わないように、と緘口令が敷かれているにも関わらず。既に土曜日の段階でちらほら、ひそひそ、こそこそと聞こえてくる噂話。
中には直接聞きにくる猛者もいた。
「小耳に挟んだんですけど、課長になるんですか?」
どっから小耳に挟んだんだよ、とつっ込みたい気持ちを抑え「ノーコメントで…」と返すのが精一杯。それなのに、否定しない=肯定と受け止められ、あっという間に噂は駆け巡る。その速度たるや、アトムやパーマンより速いんじゃないか(分からない人は気にしない)。

こっちは必死に働いているというのに、早くも聞こえてくる、新任課長たちへの評価。
あの人の課なら勝ちだよね。あの課だったらラッキーだよね…的な物言い。私はいったい勝ちなのか負けなのか、聞きたくもない。それは頼むから私がいないところで話してくれ。
正直まだ部下の勝ち負け幸不幸どころじゃない、こっちは大きすぎる事実を受け止めきれずに内心ずっと叫び続けている。

それでも。
自分の下につくことになる人、なりたいと切望していたけれど課長になれなかった人に申し訳が立たないから、会社ではせめて理不尽に叫ばないことを心にかたく誓う。

その分、自宅で私は叫びまくっている。あー!不安!不安だよー!と叫んでは、夫や子供たちから必死に慰められている。
おかーさん落ち着いて!
ママならいけるよ!!
ところでお祝い何食べに行く?(それは外食したいだけでしょうよ、この前くら寿司でたらふく食べたじゃないか)

4月から一体どうなっているのか。
未来で振り返るときのために、今の感情をここにこうして残しておく。
春からの私、どうか体調は崩さず、自分の大切な時間も諦めず、なんとか踏ん張っておくれ。
ひとまず、最初の給料明細見るまでは頑張ろ。

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