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CORNだって言うからトウモロコシだと思ったら違った

鯛焼きと同様に「どちらの側から食べるか」が論争(?)となる食品、コロネ。

「尖った方から食べるのか、それとも丸くて太い方から食べるのか」という話ですが、これはこのパンが円錐のように2つのエンドの形状が異なり、「どちらの側から~」という好みが出るからです。

日本発祥のパンであり、イタリア語の「cornoコールノ」から名前を付けたそうです。(だから「コロネ」ではなく「コルネ」としているパン屋さんもある)

cornoは動物の「角(つの)」や、それを使って作る「角笛(つのぶえ)」、更には「金管楽器のホルン」をも意味します。

カタカナ語としての「ホルン」はドイツ語「Horn」の音を採用したものですが、英語の「hornホーン」も同じつづりです。そしてこれらはcornoと、先頭の子音(字)が異なるものの、語源的につながりがあります。

英語hornにまつわるあれこれ

①大人たるもの、革靴はきちんと靴箆(くつべら)を使って履くことを習慣としたいものですが、この道具のことを英語ではshoehornシューホーン(「シュー」を強く読んでください)と呼びます。shoeを履くための「horn角製品」というわけです。現在では金属製や樹脂製のものが大半ですが、動物の角を削って作っていた名残りなのでしょう。

②かつてヨーロッパでは郵便物を運ぶ馬車の出発・到着を知らせるのに、角で作られた喇叭(らっぱ)が使われたそうで、英語ではpost hornといいます。現在でもその絵柄が各国の郵便事業者のロゴに入れられています。

③horn sectionホーン・セクションと言う言葉は、音楽のジャンルによって指すものが少し違うようです。

オーケストラにおけるホーン・セクションはホルン奏者達の一団を言うのに対して、ポピュラー音楽ではより広く「喇叭」を吹く人達のことを意味します。しかも、ホルンが入っているバンドはあまりないように思われます。

ポピュラー音楽のホーン・セクションで有名なのと言えば、「Chicagoシカーゴウ」、「Earth, Wind & Fireアース・ウィンド・アンド・ファイア」、「Tower of Powerタワー・オブ・パワー」といったバンドのものが挙げられるでしょう。

ホーン・セクションの人達は(腕が良ければ)重宝されて、よそのグループで演奏することもあります。

シカーゴウのトロンボーン奏者James Pankowジェイムズ・パンコウは、アメリカのバンドTOTOの代表曲『Rosanna』に参加しています。

アース・ウィンド・アンド・ファイアのホーン・セクション(The Phenix Hornsザ・フィーニクス・ホーンズ)はイギリスの歌手兼ドラマーPhil Collinsフィル・コリンズとの、また、タワー・オブ・パワーのそれはアメリカのバンドHuey Lewis & The Newsヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニューズとの共演が有名です。

Phil Collins - Sussudio (Official Music Video)
https://www.youtube.com/watch?v=r0qBaBb1Y-U

Huey Lewis and the News - The heart of rock & roll (Live)
https://www.youtube.com/watch?v=TS-KGecBtzs

その他の「角」関係の言葉

①トランペットに似た金管楽器コルネットの名前は「corn+et」と分析できます。前半部分はcornoと同語源であり、またetは「小」の意なので、「小さな角笛」といった具合になります。

英語の発音としては「コーネット」となりますが、アメリカでは「ネ」を、イギリスでは「コ」を強く読むようです。

②「角(かど)」を意味するお馴染みの言葉cornerも実はcornoと同源です。「角(かど)」は「角(つの)」のごとく突き出ている場所ですからね。

「the corner of a table⇒テーブルの角」

一方、その角(かど)の内側に入ってみると、それは「隅(すみ)」ということになります。これもcornerです。

「the corner of a room⇒部屋の隅」

そして「隅っこ」から「人目に付かない所」や「秘密の場所」へと意味が発展します。

「a quiet corner of the village 村の静かな引っ込んだ所.
done in a corner 秘密に行なわれた.」
(研究社新英和中辞典)

挌闘技では、リングの隅(コーナー)に追い詰められて激しい攻撃を食らうという場面がありますが、英単語cornerには「窮地」という使い方もあります。

「in a tight corner 窮地に陥って.
drive [force, put] a person into a corner 人を窮地に追い詰める.」(同)

これには動詞用法もあります。

「We've got him cornered. 彼を追いつめたぞ.」(同)

③cornという英単語があります。一見「トウモロコシ」かのようですが、穀物の方のcornとは別の単語です。足にできる「魚の目」のことです。

「《形がさかなの目に似ているところから》皮膚の角質の一部が肥厚し、楔 (くさび) 状に真皮 (しんぴ) に食い込んでいるもの。」
(小学館デジタル大辞泉)

「《角》質」は「かくしつ」と読み、辞書にはこう載っています。

「動物体を保護する角・毛・羽毛・爪・うろこなどの主な構成成分となるたんぱく質。ケラチン。」
(小学館デジタル大辞泉)

このcornもやはり、「角(つの)」を意味するラテン語から作られた単語であり、corno、cornetやcornerと兄弟と言えます。

「足の裏に魚の目ができている
I have a corn on the sole of my foot.」
(小学館プログレッシブ和英中辞典)

ところで「ケラチン」は英語で書くとkeratinですが、語源をたどっていくと古代ギリシャ語の「κέραςケラス」を基に造られた言葉だと判ります。「ケラス」はhornの意味なので、まさに「角(の物)質」ということになります。

おそらくこれにちなんだ商品名なのだと推測されますが、興和株式会社が出している薬品に『ケラチナミン』というのがあります。

その商品シリーズのサイト中、『ケラチナミンコーワ20%尿素配合クリーム』のページでは、その効能を謳(うた)う文章の中に「角質」という言葉が登場します。

「尿素のチカラが古い角質を剥がし皮膚をなめらかにすることで、みずみずしい肌へと導きます。」
「20%の尿素が働き、体の中にある水分を皮膚の角質層に効率よくとり込み、皮膚表面から水分を逃がさないようにしてくれます。」

「角」ではないcorn。と言うか、お馴染みの方のcorn

さて、「トウモロコシ」のcornを見ましょう。

「角」のcornとは別語源であり、「穀粒」を意味するゲルマン系の言葉から来ています。

比較的知られていることだと思いますが、「トウモロコシ」を表すのは北米やオーストラリアでの使い方であり、英語の本国であるイギリスでは事情が違います。

整理しますと…
イギリス:corn「穀物」、maize「トウモロコシ」
アメリカ:corn「トウモロコシ」、grain「穀物」
です。

(尚、grainはcornと語源的につながりがあります)

これを踏まえた上で、「コーンロー」という言葉を確認しましょう。

世界史の時間に習った方もいらっしゃると思いますが、イギリスの法律としての「コーンロー」はthe Corn Lawsです。

「穀物法(こくもつほう、英語: Corn Laws)とは、イギリスの穀物取引に関する法律である。特に、1815年から1846年にかけて施行されていた法が知られている。穀物価格の高値維持を目的としており地主貴族層の利益を保護していたが、安価な穀物の供給による労働者賃金の引き下げを期図した産業資本家を中心とする反穀物法同盟などの反対運動の結果、撤廃され自由貿易体制が確立した。」
ウィキペディア

複数形になっているのは、何回かにわたって出された複数の法律の総称だからです。

一方、髪型としての「コーンロー」は「トウモロコシ」の方です。

「コーンロウ(英: cornrow)は頭髪スタイリング、セットのひとつ。編み上げて出来上がったスタイルがトウモロコシ(corn)に似ていることから、このように呼ばれる。」(

実際の英文ではcornrowsというように複数形で使われます。cornのように見えるrow(列)が一人の頭に付き何列もあるからです。

尚、cornには動詞用法もあり、肉を「塩漬けにして保存する」という意味となります。

「塩漬けされた牛肉」がcorned beef、すなわち「コンビーフ」です。

「コーン」じゃなくて「コウン」

最後に、cornにちょっと似ているconeを見ておきましょう。

古代ギリシャ語で「松毬(まつかさ)」を表す言葉から来ており、英語でもその意味で使うことが可能であり、一般的には数学の「円錐形」や、その形をした各種製品を指して使われます。

oは二重母音として登場するので、「アイスクリーム、あなたはカップ派?それともコーン派?」などと言う時、「コウン」と表記する方が正確と言えましょう。

ところがややこしいことに、ice cream coneをイギリスではice cream cornetと呼ぶそうです。確かに「小さな角笛」の形ですからね。

更には、道路などに置いてある円錐形の物体もconeです。

「ロードコーン (Road cones) とは、道路や工事現場などの規制や区分けを目的として置かれる高さ約70cm前後の円錐 (Cone) 形の保安器具である。パイロン (Pylons)、三角コーン、ラバーコーン、セイフティコーン(セーフティーコーン)などともいう。日本ではカラーコーンの呼称も一般的に用いられるが、セフテック株式会社の登録商標となっている。」
ウィキペディア

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

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