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永遠に大好きな、ビーフカツレツ

おそらくだけど、私が書く記事で多いのは食べ物だ。食べることが大好きということが、ダダもれしている。しかし、私には持病があり、ちょっとした食事制限をしているため、グルメとは程遠い。加えて、実はけっこう嫌いで食べられない物もある。

ちょっと言い訳をすると、私の祖父は鮮魚店を経営していた。実家のすぐそばにそのお店があったので、その影響か、実家のごはんは魚介類ばかりだった。

毎日お刺身が出て、1週間のうち5日は貝料理。夏は連日のように鱧。贅沢なのは重々承知のうえだけど、これだけ続くと、反動でお肉好きになるのは仕方なくないか?

ということもあり、私はけっこうなお肉好き。特に、洋食屋さんが大好き。

子供の頃、実家の近所に小さな洋食屋さんがあった。有名なホテルの料理長だったシェフが、早期退職をして開いたお店。4人掛けのテーブル席が2つ、2人掛けのテーブル席が1つ、カウンター席は8人座ったら満席で、ほんとうに小さな小さなお店だった。おそらく20人も入れなかったんじゃないかな。

駅から遠く、辺ぴなところにあったのに、お店はいつも満席。地元の人だけじゃなく、遠方から来ている人も多かったのだけど、つまり、それほどにシェフの作る洋食が美味しかったということ。出された料理に舌鼓を打つ、というのは、このシェフの料理のためにあるんじゃないか。幼い私がそう思うくらいだから、相当美味しかったことを伝えたい。

私がいつも頼むのは、ビーフカツレツのセットだ。最初に出てくるのは、ポタージュスープ。スープは、おそらくジャガイモとタマネギ。濃い味ではないのに、優しい風味で、味もしっかりしている。なのに、塩辛くない。すきっ腹にとても優しいスープだ。

スープを飲みほした頃、メインのビーフカツレツが運ばれてくる。お皿には大きなビフカツがデーンと陣取り、色鮮やかで新鮮なサラダが周りを彩っている。サラダにかけられたオーロラソースは特に絶品だった。私が毎回サラダを夢中になって食べるので、親は私が相当なサラダ好きだと思っていたようだけど、私が夢中だったのは、オーロラソースの方。

そして、メインのビーフカツレツ。肉は分厚く、なのにめちゃくちゃやわらかい。ビフカツは20cmくらいはあったんじゃないかな。ビフカツにかけられているソースは、赤ワインとフォンドボーが使われていたそうだけど、それ以外に何が入っていたかはわからない。コクがあり、甘さやすっぱさが絶妙にマッチしていて、ソースだけなめても美味しいのに、ビフカツにかけるともっと美味しい。ビフカツの美味しいと、ソースの美味しいが絶妙にマッチするんだから、この料理の美味しさは最上級だ。

このビフカツは、なぜかご飯と相性がよかった。フランスパン(今でいうバケット)も美味しかったが、ご飯は格別。当時、私はまだ小学生で、それほどたくさん食べる子供ではなかったのに、このビフカツセットは大人1人前をペロリと食べた。何度も書くけど、それくらい美味しかったのだ。それほど食べない子供が、お腹がはちきれそうと焦りながら、でも食べつくすほどに。

この洋食店で夕食を食べてから数日は、美味しいの余韻に浸っていた。そんな大げさな、と思うかもしれないけど、私の家族も同じことを言っていたから、きっとみんな食べたらそうなるよ。

けど、悲しいことに、この洋食店は閉店してしまったから、もう食べられない。同じような洋食店がないかなと探してン十年が過ぎたけど、未だに出会えていない。

もし、私の目の前に神様が現れて、3つ願いをかなえると言われたら、私は躊躇せずに言うだろう。この洋食店のビフカツセットをもう一度食べたい、と。

でも、2つとか1つだったら、言わないかもな…。大人になると、背に腹を変えられないことが増えて、嫌だわ、ほんとに。

そんなわけで、私が永遠に好きなのは、ビフカツ。でも、このビフカツは、もう二度と食べることはできない。もし来世があるなら、そこで食べられるよう、しっかりと徳を積もうじゃないか。


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