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『掃除婦のための手引き書』感想

ルシア・ベルリン著、岸本佐知子訳の『掃除婦のための手引き書』を読みました。

著者の人生の中の日常を切り取ったような短編集です。

作品中で起こる出来事は、性暴力やアルコール依存症、刑務所での体験など、衝撃的な内容が多く、とても1人の女性が生涯で経験したこととは思えません。あまりにも壮絶な人生で、これがもし自分だったら心がもたないと思ってしまいます。

なのに彼女の紡ぐ言葉はやさしくて、陽だまりのような安心感があるのが不思議な感覚でした。世界の見え方も独特で、どの作品もすっと引き込まれていきました。

母親や妹を始めとする周りの人に対する彼女の思い、垣間見えるユーモア、街並みや風景の描き方。柔らかいはずなのに鋭く核心を突くような言葉。そのひとつひとつが読みながら染み渡っていくようでした。

人生の中で巡ってくる悲しみや痛み、あらゆる感情を文章として、作品として表現していく中で、彼女は何を思ったのだろうと考えたのと同時に、私自身の、家族や友人、恋愛、仕事との向き合い方についても振り返るきっかけになりました。

「かわいそうに。過去の因習に囚われて、他人にああしなさいこう考えなさいと命令されて、ずっとそうやってがんじがらめで生きていくのね。」

「いいと悪い」p.126


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